教職感動エピソード

Vol.16 教師の成長は,児童の成長につながります

西崎 泰生(元東京都公立小学校長)

 

感動エピソード

「実習やボランティア活動をたくさんしてきました。学校現場もたくさん見てきましたので,教師の仕事を理解しています。」

面接試験で,そう答える人は少なくありません。しかし,実際に教壇に立つと,「今まで何を学んできたのか」と自分の無力さに打ちのめされてしまいます。それは誰もが通らねばならない道であり,むしろそのように思った時から教師という長い道のスタート地点に立つのだと思います。それは,苦しく長い道ではなく,全力を尽くして極めていく「教師道」という可能性に満ちた道のりです。

私の若手教員時代の体験を2つほど紹介します。これから教員になる人たちにとって,参考になればと思います。

ケース1 できることからしていく

休み時間になっても,一人で黙って席に座っている女子児童がいました。悪口を言われるなどの「いじめ」にあっている様子でした。

前年度までの指導要録には,「欠席数が多い」「国語以外の成績は良くなく,特に算数の成績が悪い」との記載がありました。前担任によれば,「あの子は,家庭の事情で欠席することが多いのです。学校や勉強が嫌いだというわけではありません」とのこと。「どうして仲良くできないの?」と学級の児童たちに尋ねた
ところ,「あの子の洋服から変な臭いがするの」との返事が返ってきました。

今,教師として何ができるのだろうか――私は必死に考え,その子に近寄り,頭をなで,肩に手を置きました。今,それが必要だと思ったからです。その後も私は,できるだけその子に声をかけました。授業中も指名して,教科書の文を読ませました。小さな声ではありましたが,しっかり読むことができました。

そうするうちに,学級の児童たちの様子が少しずつ変わっていきました。その子に対する悪口が消えていったのです。

「欠席を少なくすること」と「学力を高めること」。それをその後の課題としました。

私が学校へ向かう道沿いに,その子が住むアパートがありました。私は毎日,ドアをノックし,「〇〇さん,学校に行こうね。お母さん,学校に行かせてください」と,声をかけ続けました。その子の家庭は母子家庭で,弟が3人おり,その面倒を見させるために,母親が学校を休ませていたのです。

その子が学校に来た日は,個別指導もしました。下の学年の問題から教え,本人も懸命に努力し,学力は着実に伸びていきました。

1学期の家庭訪問。母親は,毎日の声かけや学校での個別指導を好意的に受け止めてくれていることが分かりました。そして,家庭環境の改善も含め,かなり踏み込んで話し合いました。母親は勤務体制を変え,その子が学校に通学できる体制を作っていくと約束してくれました。

次第に,青白く無表情だったその子の顔に,笑顔が多くなってきました。2年間担任を務めた後,その親子は安心して暮らせるようになるために転職・転居し,交流は止まりましたが,あの子ならきっと自らの力で人生を切り拓いていけるだろう,そう信じて今も再会を待ち望んでいます。

ケース2 独りで問題を抱えず,周りの人の助言を受ける

サッカー好きな児童が多い高学年を受け持ったときのことです。休み時間に一緒に遊んだり,放課後や土曜日のサッカー練習を観戦したりと,私は楽しい教員生活を送っていました。

しかし,ある時期から,男子集団から反発を受けるようになってしまいました。学級の雰囲気がぎくしゃくして,男子集団が非協力的になっていったのです。私は当初,何が原因か分からずに悩んでいました。

その当時,学校の近くに,ある児童の保護者が営む駄菓子屋があり,私は子供たちの様子を見るため,時々顔を出していました。ある日,いつものように顔を出すと,「先生,最近どう? 子供たちとうまくいっている?」と,父親である店主が話しかけてきました。

「最近,子供たちが先生の悪口を言うようになってきたよ。」

店主はそう言って,ある指導がきっかけになっていることを教えてくれました。感情に任せて叱った時のことで,子供たちのプライドを傷つけてしまっていたのです。

「そうですか…。あの時の指導についてそんなことを言っていたんですね。早速,子供たちと話をするようにします。」

「そうだね。早い方がいいね。先生。よろしく。」

翌日,私は男子児童全員を呼んで話し合いの場を持ちました。

「今さら,何だよ。」

最初はそう反発していましたが,じっくり話し合うことで,和解することができました。

もともと素直な子供たちだったので,徐々に協力的な姿勢も戻ってきて,卒業まで充実した学校生活を送ることができました。

保護者である店主の率直な助言がなかったら,どうなっていたでしょうか。児童の心に響く指導を大切にすること,そして一人で問題を抱え込まずに周りの人の助言を聞くこと。この経験をから学んだことです。

※     ※     ※
私の若手教員時代は,保護者の理解が得られやすく,保護者に見守られながら成長してきたように思います。現在は,価値観も多様化し,学校教育への要求も強くなってきているようです。普通にできて当たり前,失敗すると厳しく糾弾される。そんな風潮になってきましたが,だからこそ,若い先生には頑張っていただきたいと思います。

若い先生,教員を目指している人には,特に次の3点を目指してほしいと思います。1点目は「子供の成長を願い,力を尽くす教師」,2点目は「感情をコントロールし,子供の心に寄り添う教師」,そして3点目は「失敗をバネにするたくましさを持つ教師」です。

周りの人たち,特に先輩教員は厳しく若手教員を指導していきます。厳しい指導に心が折れてしまうこともあるでしょう。しかし,教師の成長は,子供たちの成長にもつながります。「子供たちの笑顔」を見るために,積極的に先輩から指導を受けるようにしてください。

私は,たくさんの人々に支えられ,たくさんの子供たちの笑顔に囲まれて,「教師になってよかった」と思っています。教員を目指す皆さん,学びを積み重ねるとともに,人間関係を豊かにして魅力ある人になってください。

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