学校不祥事の顛末

児童の情報が入ったUSBメモリを紛失

【今月の事例】
児童の情報が入ったUSBメモリを紛失
A県教育委員会は、車上狙いの被害に遭い児童38人分の氏名、住所、成績、写真が入ったUSBメモリを盗まれたB町立小の女性教諭を同日付で戒告処分にしたと発表した。県教委によると、情報の流出は確認されていない。
女性教諭は午後8時頃、自宅近くのコインランドリー駐車場に駐車し、洗濯物を投入するため鍵を掛けずに車を離れた。約10分後に近くのガソリンスタンドに到着した際、USBメモリや携帯電話などが入ったバッグが無いことに気付いた。携帯電話には児童の保護者の電話番号が分かる着信履歴が残り、同時に盗まれた別のバッグには児童の未採点のテスト答案も入っていた。個人情報を持ち出す際には校長の許可が必要だが、女性教諭は3学期の成績をつけるため、1月末から無許可で持ち出していたという。

【法律家の眼】

大切な“基本”を守れなかった
ことに起因する不祥事

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 個人情報の保護法制

近年、個人情報保護への関心が高まっていることは、皆さん周知のことと思います。こうした流れの中で、個人情報を適正に取り扱うため、個人情報に関する基本法である個人情報保護法の他、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律、地方自治体による個人情報保護条例が整備されています。

 

2 個人情報とは

法律上、「個人情報」とは「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)」と定義されています(個人情報保護法第2条1項)。

 

3 本事案の問題点

USBメモリのデータは、児童の氏名、住所、成績、写真であり、テスト答案や携帯電話にしても、氏名、学校名、電話番号などの情報が含まれますので、本事案はまさに個人情報の紛失事故に当たります。
女性教諭の行為の問題点は、
①校長の許可を得ず、個人情報を持ち出した
②持ち出した個人情報を施錠していない車内に置いて車を離れた
という2つに分けられます。
「自宅に持ち帰ってまで仕事をしようと熱心だったのに」とか、「車上荒らしをする方が悪くて女性教諭は被害者だ」などと、女性教諭を気の毒に思うのは間違いです。そもそも①がなければ②は起こり得ないわけですから、「無断で個人情報を持ち出してはいけない」という基本を女性教諭が守れなかったことに、原因の全てがあります。

 

4 USBメモリの紛失事故は多い

個人情報の紛失、漏えい事故のうち、特にUSBメモリによるものは多く見られるところです。理由としては、小型軽量のため気軽に持ち出しやすいことが挙げられますが、一方ではそうした形状ゆえに、管理に油断が生まれ、一旦紛失してしまうと見つけることができず、事故につながるケースも多いようです。

 

5 個人情報を持ち出す理由

女性教諭は、なぜ許可を得ずに個人情報を持ち出してしまったのでしょうか。許可を得るためには持ち出す理由を説明しなければなりませんが、管理職に「仕事が遅い」と思われたくない、評価を下げられたくないといった気持ちがあったのかもしれません。あるいは、「今までも持ち帰ったことがあるけど、なくしたことはないから大丈夫」などと考えたのかもしれません。いずれにせよ、こうした個人情報の紛失事故が後を絶たない現状があるわけですから、同じ轍を踏むことが許されるはずはありません。

 

6 紛失事故から学ぶべきこと

第一に、個人情報は外へ持ち出さないのが基本であることを再確認してください。やむを得ず持ち出す場合は、校長の許可を得るなど、所定の手続きを取る必要があります。また、持ち出す場合に例えば「パスワードロックをかける」といったルールがあるようならば、それを遵守してください。
許可を得て持ち出す場合も、民間企業であれば、例えば「個人情報が入ったUSBメモリを入れたバッグを体から離さない」「目的地までの途中で立ち寄りをしない」などがルール化されていることがあり、参考になると思います。
なお、やむを得ず、個人の携帯端末に保護者や児童生徒の氏名、電話番号などを入力した場合は、最低でもパスワードロックをかけるなどの配慮をすべきでしょう。こうしたことも、学校ごとにルールがある場合は、必ずそれに従うようにしてください。

 

【教育者の眼】

「私に限って大丈夫」という
過信が招く個人情報の紛失事故

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■“意識の低さ”に起因する不祥事

今回は、公立小学校の女性教諭による個人情報紛失の事例です。昨今、こうした個人情報の盗難、紛失や流失などの事故が、たびたびマスコミを賑わしています。
最も多いのは、校長の許可なく、職務上知り得た情報が入ったUSBメモリ等を持ち出し、それを車に置いたまま買い物やパチンコ等に興じ、盗難に遭う…というパターンです。共通するのは「車に鍵をしていれば大丈夫」「短い時間だから」「私に限って盗難されることはない」などといった過信です。そうした過信と情報管理の意識の低さが事故を招く要因となっています。
教員採用試験でもたびたび問われる“職務上知り得た情報”を一体どのように考えているのでしょうか。これが一般企業であったとしたら、顧客等からの信頼を失い、状況によっては死活問題につながってしまうこともあります。そう考えても、教員の意識の低さは一般常識とかけ離れており、学校は組織体として、教員一人一人の意識を高めなければなりません。
学校は子供たちの教育の充実、安全確保等のために、多くの個人情報を保持しており、しっかりと管理していくべき義務を負っています。特に注意が必要なのは、子供の個人情報です。この事例で唯一の救いは、情報の流失が確認できていない点で、これが生じた場合には、損害賠償問題に発展することもあります。

 

■信頼は法令遵守から

教師には、職務上知り得た情報の守秘義務(地方公務員法第34条)があり、それが個人的なものであろうが公的なものであろうが、在職中はもちろん、退職後も漏らしてはならないことになっています。故意に秘密を漏らしたわけでなくとも、個人情報の入ったUSBメモリ等を紛失したり、盗難されたりした場合も、結果としては同じことです。
さらに、この学校では個人情報を持ち出す際、校長の許可を必要としていましたが、この教諭は許可を得ずに持ち出していました。仮に許可を得て持ち出したとしても、盗難や紛失することのないよう、肌身離さず持ち歩くなど、個人情報の重大さに最大限の注意を払う必要があります。
本事例の教諭は、無許可での持ち出しであることから、「法令等及び上司の職務上の命令に従う義務」(地方公務員法第32条)にも反していると言えます。懲戒処分として、戒告処分を受けるのは当然と言えるでしょう。教員は、法令等を遵守し、教育公務員としての責務を深く自覚して、「全体の奉仕者」として誠実かつ公正に職務を行わなければならないことを肝に銘じてほしいと思います。

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