カリスマ教師の履歴書

File.15 生稲 勇先生(千葉県市原市立三和中学校)

  自分の気持ちを“きちんと”言葉にしてみよう

現在、教務主任を務めながら3年生に国語を教えている生稲先生。体を動かすユニークな授業スタイルと、生徒たちの自信を育てる独自の指導について、お話を伺いました。

生稲先生 メイン

文・澤田 憲

 

逆転の発想から生まれた「体を動かす」国語の授業

生徒たちに白い用紙を配ると、生稲先生は黒板に正方形を9等分に区切った図形を大きく描きました。

「みんな、この通りに用紙を折れるかな?」

生徒たちは周囲と相談し合いながら、用紙に折り目をつけていきます。

一見、数学や美術の授業にも見えるこの場面。しかしこれこそが、生稲式“体を動かして学ぶ”国語の授業なのです。

「私はこの学校に勤務して6年目になりますが、当初は落ち着きのない子が多かったんです。意図的に授業を妨害しているわけではなく、とにかくじっとしていられない。だったら、もっと体を動かせるようにしてあげよう。手を動かし、しゃべらせ、それでも学べるように、授業を変えようと考えたのです。逆転の発想ですね。」

実際、生稲先生の授業は目まぐるしく変化していきます。最初の10 分間は漢字の書き取り、次に1分間スピーチ、次に用紙を折って…といった具合に、次から次へと課題が出てきて、「次は何をやるんだろう?」という期待感に満ちています。

「教室には、話すことが好きな子もいれば、聞くことが好きな子もいます。教師が一方的に話し続けて、聞くことばかりを強いるような授業では、苦痛に感じる子がいて当たり前です。だからこそ、聞くことが苦手な子には、“話す”場面を意図的に作って、主役にしてあげる。聞く時間、話す時間、動く時間を授業に織り交ぜれば、どの子もどこかで自分が頑張れたという実感が得られ、授業へのモチベーションも高まります。」

生徒たちが用紙を折り終えると、生稲先生は9等分されたマス目に「自分が言われてうれしい言葉」を書くように指示。続いて3~4人のグループで用紙を交換し合い、そこに書かれている言葉を互いに掛け合います。

「いつも元気だね。」

「字がきれい!」

「話がうまくて面白いよ。」

グループ活動に入る前、生稲先生は生徒たちに一つのことを強調して伝えていました。

「心を込めて、言葉を伝えてみよう。」

 

成功することよりも成長することの方が大切

「相手を認め、その気持ちをきちんと言葉にすること」の意義について、生稲先生はこう語ります。

「今の子供たち全般に言えることですが、とにかく自尊感情が低い。親や教師からほめられた、認められた経験の少ない子が増えている気がします。」

原因の一つに、子供たちの「失敗経験の少なさ」があると生稲先生は指摘します。昔と比べ、今は親も教師も子供たちが失敗しないように、先回りして障害を取り除いてしまう時代。その結果、頑張って困難を乗り越えたときに達成感を味わったり、「よく頑張ったね」とほめられたりする機会は少なくなっています。その一方で、失敗したときは「(御膳立てしたのに)なぜできないんだ」と過剰に責められて、自信を失くしてしまうと言います。

「私は、生徒たち自身に任せるところは任せ、たとえ失敗しても自分で立ち上がる力を身に付けさせたいと考えています。そうしなければ、本当の意味での“生きる力”は養われません。障害やリスクを取り除くのではなく、それを乗り越える力を身に付けさせる指導が必要だと感じています。」

生稲先生がこう考えるようになった契機は、8年前に大学院で教わったあるプログラムだったそうです。

「その頃、私は一旦現場を離れ、教育委員会に勤務しながら夜間に大学院へ通っていました。そこで出会ったのが『PA(プロジェクト・アドベンチャー)』です。冒険的な要素を取り入れながら、グループで一つの課題に取り組むもので、メンバーに命綱を預けて、8メートルもある丸太の上からジャンプするなどの課題もありました。1人では決して乗り越えられない課題を、仲間と協力し合うことで乗り越えていく教育プログラムです。」

PA の学習を通じ、「あえてリスクをかけることで生徒たちの成長を促すことの大切さを学んだ」と、生稲先生は語ります。

「一番大切なのは、生徒たち自身に考えさせることです。自分一人では解決できない課題に向き合わせると、仲間を頼り、そこからコミュニケーションや信頼関係が生まれます。たとえ上手く解決できなくても、その経験が生徒たちを大きく成長させるのです。」

 

生稲先生 サブ

 

心を込めた言葉が人を動かす

生稲先生がもう一つ大切にしているのが、生徒一人一人の気持ちに寄り添える教師であり続けることです。担任を持っていたときは、毎日欠かさず学級通信を発行し、誕生日の子の特集記事を書くなど、1年の間に全員が主役になれる場面を必ず一度は作っていたと言います。

「『誰かが自分を見てくれている』という安心感が、生徒たちの自尊感情を育みます。その子に起こった出来事や生の声を一人残らず載せることで、学級通信を生徒同士だけでなく、生徒と親、生徒と地域をもつなぐものにしたかったんです。」

学級通信の反響は大きく、希望する卒業生にもメールマガジンとして送っていたそうです。以前、ベストセラーとなった『世界がもし100 人の村だったら』という書籍は、生稲先生のメールマガジンがきっかけとなって生まれた書籍なのだそうです。

たくさんの人と気持ちを通じ合わせるためには、言葉に心を込めることが大切だと話す生稲先生。

「私たち人間は、何も言わずとも相手に気持ちが伝えられるほどには進化していません。だから、自分の気持ちをきちんと言葉にする練習が必要です。今の子供たちは主語述語を使わず、単語で話すことが増えています。でも、言葉は情報だけでなく、感情を表すものでもあります。もっと声のトーンや言葉の表情といったものに、敏感であってほしいなと思いますね。」

これからも国語の授業を通じて、言葉の良さや温かさについて生徒たちと一緒に考えていきたい。生稲先生は、そう抱負を語ります。

 

生稲先生 顔

Profile
生稲 勇(いくいないさむ)
1963 年3 月25 日生

昭和63年4月 千葉県市原市立姉崎東中学校に赴任
その後、八幡東中学校、五井中学校を経て
平成19年4月 市原市教育委員会に異動
平成22年3月 千葉大学大学院学校教育臨床専攻修了
平成23年4月 千葉県市原市立三和中学校に異動

座右の銘
苦しいときは前進している

趣味・特技
作詞作曲(生徒が主人公の歌が300曲以上あります)

 

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