教職感動エピソード

Vol.14 子供たちの心に種をまく いつか子供たちの心に花が咲くことを信じて

原 陽子(元埼玉県小学校長)

感動エピソード

 

 

小学校教員の一番の楽しみ・喜び・醍醐味は、学級経営であると言えます。上手くいく場合もありますが、苦労する場合もあります。教員を目指す皆さんに、私の経験の中から今でも鮮明に心に残っていることをお話したいと思います。

私が若かりし頃、小学校のクラス替えは6年間で3回行うのが一般的で、1年生から2年生、3年生から4年生、5年生から6年生に進級するときは、学級担任は変わっても、クラスはそのままというのが大半でした。これからお話するのは、私があるクラスを6年生で担任した時のエピソードです。

始業式で私の名前が担任として呼ばれた時、クラスの子供たちは本当に喜んでくれました。担任発表時は「声を出さない」約束でしたが、それでも大きな歓声で迎えてくれたのです。その子供たちは2年生の時に担任をしたことのある学年で、素直なかわいい子供たちという印象を強く持っていました。

しかし、実際に学級経営を進めていくと、大きな壁に直面しました。私の思いが、言葉が、子供たちにうまく伝わらないのです。私と子供たちとの間に、溝のような、バリアのようなものがあることに気が付きました。話を聞いていくうちに、子供たちは5年生の時の担任と相性が悪く、大人や教員に不信感を持つようになっていたことを知りました。そのため、私が言うことにあからさまな反発や反論はしないものの、私の言葉が子供たちの心に響いているようには思えませんでした。私が何を言っても、子供たちに聞き流されているように感じたのです。

どうすれば子供たちの心に、私の思いや言葉を伝えることができるのか。私は悩んだ末に、2つのことを始めました。1つは、教室の黒板に私の思いを書くこと。毎日、子供たちが帰った後、まずは教室を片付け机を整頓し、担任と子供が向き合える教室環境を整えました。そして、その日良かったところや次の日の心構えを黒板に書いていきました。

「教室の掃除がとてもきれいにできました。気持ちがいいですね。」

「昨日の集会は、最高学年らしくすばらしい態度でした。りっぱです。」

「今日も力いっぱいがんばろう。」

2~3行の短い言葉を書いた日もあれば、黒板が一杯になるほど長い言葉を綴った日もありました。思春期の入り口で悩み戸惑う子供たちに、周りの大人がどれほどあなたたちのことを思っているか、心配しているかを伝えました。人が生きていく上で楽しさや喜びがたくさんあること、それとともに悲しさや苦しみもあることを伝えました。そして、どんなに苦しいことやつらいことでも必ず乗り越えられると伝えました。出張の日や疲れ切って書けなかった日は、翌朝早く登校し、子供たちが登校して来る前に書きました。言葉の書かれた黒板を見ても、子供たちは何も言いませんでした。それでも、子供たちの心に種をまくつもりで、毎日書き続けました。いつか子供たちの心に花が咲くことを信じて。

もう一つは、学級会の話し合い活動に力を入れたことです。担任が決めることと子供たちが決めていいことを明確にし、子たちが決めていいことは学級会で話し合って決めるようにしました。議長団も輪番制にして、クラス全員が議長を経験するようにしました。クラスの願いや決まり、レクリエーションの内容など、さまざまな議題について皆が意見を出し合い、話し合いました。そして、みんなで決めたことは最後までやり切るように指導しました。上手くできないこともたくさんありましたが、何とか協力してやり遂げました。

学級会の話し合い活動に力を入れることによって、子供たちは自分の意見をきちんと主張するようになりました。どんな小さなことでも、一生懸命考えて自分の意見を口に出し、少しずつ、互いを尊重しながら話し合いができるようになっていきました。

そうしているうちに、ただ黙って私の話を聞き流していた子供たちが、次第に変わっていきました。私と子供たちの間に感じた溝のような、バリアのようなものが少しずつ消え、私に対して遠慮がなくなり、いろいろな話をするようになったのです。時にはやり過ぎて怒られることもありましたが、クラスには一体感が出てきました。そして、子供たちの発案・計画で、たくさんの学級行事や活動が行われました。

そして迎えた卒業式の日。子供たちを無事に送り出すことができ、達成感と安堵の気持ちで一杯になった私は、子供たちがいなくなった後の教室へ行きました。すると、黒板一杯に感謝の言葉や中学校生活への意気込みが、書いてあったのです。

「先生ありがとう。」

「1 年間楽しかったよ。」

「クラス最高。」

「中学校に行っても、先生の言葉を忘れずにがんばります。」

それは、子供たち一人一人が、思いを込めて残してくれた言葉。1年間、黒板に言葉を書き続けた私への返事でした。私が書き続けた言葉は無駄ではなかった、私のまいた種は子供たちの心の中でしっかりと根を張り育っていたのだと、胸が一杯になりました。

卒業後、2年ほどして子供から1通の手紙が届きました。そこには、私が黒板に綴った言葉が書いてありました。その言葉がとても心に残ったので、ノートに書き写したのだそうです。手紙には、「悩んだとき困ったときは、それを見て勇気づけられている」と記されていました。私の言葉をそんなにも大切にしてくれている子供がいると知り、教員になってよかったと心から思いました。

よく、「教育は人なり」と言われます。人を育てるのは人です。もちろん、教えるための技術は必要ですが、何よりも大切なのは、子供たちと向き合う心なのです。子供を思う気持ちが子供を育て、教員を育てる。子供と向き合う心が、学級経営の基になるのだと信じています。

教員を目指す皆さん、教員を取り巻く環境は厳しいものがありますが、子供たちを育てるこの仕事には素晴らしいものがあります。子供と向き合う心を大切に、教員となった暁には自分の学級経営を行っていってください。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご案内