教職感動エピソード

Vol.13 生徒と一緒に涙を流せる喜びが原点に

北見 俊則(横浜市立上永谷中学校長)

エピソード

初任で中学3年生の担任に

私が新任教師として赴任した中学校は、荒れをなんとか立て直したいと各先生が奮闘するなど、気迫を感じる学校でした。

私は、高校で2年間非常勤講師をしていた実績を買われたのか、いきなり中学3年生の担任をすることになりました。学級委員会の指導も任され、5月には2時間続きの球技大会を企画・実施。私は、非常勤時代にはできなかった「生徒と一緒に行事を創る」という活動に夢中になっていました。

その一方、クラスでは生徒たちと格闘する毎日。例えば、お弁当を食べる時のルールも確認しないまま昼食の時間を過ごしていたことから、新年度が始まって1カ月もした頃には、生徒たちがお弁当の中身を投げ合うような状態になっていました。

合唱コンクールが転機に

秋になり、合唱コンクールの練習に取り組んでいる時、「なんで歌わないんだ!?」「あんたたちこそ、練習に遅れてくるじゃない!」と、生徒同士の言い合いが始まりました。

「もう歌わない!」

「合唱コンクールにも出ない!」

いさかいは、一気に大きくなり、クラス全体の問題に発展しました。

それまでの私は、何か問題が起こると、教師である自分も問題の渦中に入り、生徒と同じ目線でやり取りをしていました。しかしこの時、ふと自分は渦中の人間ではなく、生徒同士のやりとりを冷静に見ることができる立ち位置にいることに気付いたのです。そして、肩の力を抜き、この話し合いを生徒たちに任せてみようという気持ちになったのです。

「先生、自習時間をもらって、話し合いをしていいですか?」と学級委員が聞きに来ました。話し合いは下校時間まで続きましたが決着がつかず、「明日7時に登校してもいいですか?」と聞いてきました。私が「全員参加」を条件にしたところ、翌朝は全員が朝の7時に集まりました。それでも決着はつかず、その日の放課後も、次の日の朝も、クラス全員の話し合いは2日半にわたりました。

最初のうちは互いに批判し合っていた生徒たちでしたが、議論を重ねるうちに互いを理解し始めたのか、「俺は◯◯で悪かった」「私も×× で悪かった」と自己批判を始めました。そして最後には、「みんなの気持ちを合わせて、頑張って歌おう!」「最高の合唱をつくろう!」と全員の意見が一つにまとまったのです。コンクール本番では残念ながら賞を取ることができま
せんでしたが、納得がいくまで徹底的に話し合ったことは、生徒たちの財産になりました。

合唱コンクール終了後、クラスの雰囲気は確実に変わっていきました。それまで、生徒と常に“向かい合っている”感覚だった私でしたが、この頃から生徒と“同じ方向を向いて歩み始めている”ように感じました。

クリスマスパーティ

12 月の2学期最終日、先生たちの納め会で残った食べ物を私が集めているのを見た同僚が「何をしているの?」と聞いてきました。

「これからクラスのみんなで、クリスマスパーティをやるんだ!」

「どこで?」

「4階の音楽室で。」

「それ、ダメでしょ!全員下校だよ!」

「いやいや、内緒、内緒。」

そうは言ったものの、すぐ学年主任の先生に知られてしまいました。ところがその先生は「それじゃあ、あっちの昇降口を開けて、向こうの階段から生徒を登らせたらいい」とアドバイスまでしてくれたのです。

しかしその晩、私は自分がやったことを正直に謝ろうと、初めて校長先生宅に電話をしました。ドキドキしました。電話に出た奥様は、「ああ、北見先生ね。いつも頑張ってくれてありがとうございます」とおっしゃいました。「ええー!どうして校長先生の奥様が自分のことを知っているの?」と驚きながら、電話を代わった校長に「学校のルールを破って申し訳ありません」と謝ると、校長先生は笑いながら「ばかもん!」とおっしゃいました。その時の会話で、心の中がとても温かくなったのを今でも覚えています。

別れの集い実行委員会

それより少し前の12 月初旬、学年主任の先生から「有志でバンドをやっている生徒から、発表の機会を作ってほしいと頼まれている。学級委員会で企画してやってくれ」と頼まれました。同じ学年を担任する初任者3人で知恵を出し合い、ただのバンドの発表会ではなく、3年間を共に過ごした仲間たちの「別れの集い」を最後の学年集会として行うことにしました。

入試前にもかかわらず実行委員を募集し、入試の準備と両立できること、絶対に入試で失敗しないこと、万が一失敗してもそれを実行委員会のせいにしないこと、親と担任の許可をもらうことを条件に、メンバーを集めました。

「バンドの演奏は、自己満足じゃダメだ!」

「何のために、この集いをやるのか?」

「どうやって、3年間を共に過ごしてきた仲間たちとの最後の時間を過ごすのか?」

実行委員会では、土曜日の昼から下校時間まで、徹底的に話し合うなどしました。メンバーの中に「俺たち、不良って言われて辛かったんだ」と泣きながら語る男子生徒がいて、そこから話し合いがぐっと深まりました。そして、思いを自分たちの言葉として投げ掛けるために、「別れの集い」の最後はキャンドルサービスで締めくくろうという話でまとまりました。

本番当日、テーマは「今が過去になる前に」。卒業式2日前の午後の2時間を使い、体育館で行われました。始めの言葉、バンド演奏、目立ちたがり屋ショー、ゲーム大会、ふれあいダンス、そしてキャンドルサービス…。催しは予想以上に盛り上がり、最後は学年340 名のほとんどが泣いていました。キャンドルサービスが終わって体育館の出口が開いても、誰一人退場する生徒がいないほどでした。

私は、実行委員の生徒たちに「3年生全体が我を忘れて盛り上がるような場面を作らなければ、最後のキャンドルで3年間を振り返り、自分自身を見つめる時間を作れない!」と投げ掛けてきました。生徒たちはそれを見事にやり遂げたのです。

かけがえのない教職1年目

教員生活の初年度で、こんな経験をさせてもらえたのはとても幸せなことでした。先輩の先生方が、学年主任の先生と同じように温かく見守ってくださったこと、何でも話し合える素敵な仲間に出会えたこと、そして生徒たちと納得いくまで徹底的に話し合えたことが、そんな教職1年目を送れた要因だったと思います。その後34 年に及ぶ教員人生において、初年度の経験が私の支えになりました。生徒と共に創り上げる喜び、共に同じ涙を流せる喜びを求め、教員を続けることができました。

これから教職を目指す皆さん、教師とはとても素敵な仕事です。あなたの持ち味を生かして頑張ってください。

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