カリスマ教師の履歴書

File.12  三浦 貴子先生(千葉県富津市立大貫小学校)

 あなたの人生のモデルは誰ですか?
千葉県教育委員会から「魅力ある授業づくりの達人」に認定された三浦貴子先生は、さまざまな人の人生をモデルにした独自のプログラムによる道徳の授業を実践しています。子供たちの「生きる力」を育む秘訣はどこにあるのか、話を伺いました。

 

カリスマ三浦先生 メイン1

文・澤田 憲

先生だって逃げたいときはある

6年生の道徳の時間。教室前のモニターに映し出されたのは、学級担任・松永亮先生の子供時代の写真でした。

「これはいつ頃の写真?」

「小学生のときですね。マラソン大会のときかな。」

「そうなんだ。運動は得意だったんですか?」

「全然。とにかく足が遅くて、それがすごくコンプレックスでしたね。」

三浦先生の質問に松永先生が答えるたびに、子供たちからは「へぇ!」と驚きの声があがります。この日行われていたのは「人との出会いは最高の学び~ゲストの生き方に学ぼう~」という道徳の特別授業。学級担任を務める松永先生をゲストに迎え、三浦先生が本人に内緒でご家族から借りた写真や手紙とともに、その生い立ちを聞いていきます。

普段、松永先生から指導を受けている子供たちにとって、その答えは意外なものばかり。「実は泳ぐのが苦手だった」「高校のときに勉強に挫折して少しグレていた」など、先生としては“本当は知られたくない事実”も、隠すことなく子供たちに語っていきます。

「強い部分や利口な部分だけを見せても、子供たちの共感は得られません。『先生は自分の気持ちを分かってくれない』と感じ、いけないことは隠そうとしてしまいます。この授業で心掛けているのは、教師の“人間としての素の部分”を見せること。『先生にも弱い部分や悩みがあるんだ』と感じてくれれば、『じゃあそれをどうやって乗り越えたの?』と、子供たちも積極的に質問や相談をしてくれるようになります。」

教師は子供たちの手本となるべき存在。だからといって、完璧である必要はない。そのことは子供たちもよく理解してくれているようです。

「いつもみんなに『気合いだ!』って励ましているけど、先生だって落ち込んだり、逃げ出したくなったことが、これまでたくさんあった。でも、どうしても教師になりたくて、そのためにできることを頑張り続けたから、今こうしてみんなの前にいられるんだ。」

そう本音で語る松永先生の顔を、どの子供もまっすぐな眼差しで見つめています。

 

人の生き方を通じて自分自身を振り返る

小学校の教員になった当初から、道徳の授業に興味があったという三浦先生。2007 年度には長期研修生として、「人の生き方に学ぶ道徳授業~学びの環境構成~」をテーマに、千葉大学大学院で1年間研究活動に携わりました。また、アメリカのミネソタやシアトルの学校を視察し、より効果的な道徳のプログラムを研究。その実績により、2008 年度には、上廣道徳教育賞の全国個人の部で最優秀賞を受賞しました。

三浦先生が、自身の研究テーマでもある「人の生き方」に強い関心を持つようになったのは、小学校時代のある出来事がきっかけだったと言います。

「小学3年生で転校したとき、周りの目を気にして積極的に人前で話せなかった時期があったのですが、先生が毎日励ましてくれたことで自信が持てたんです。それがきっかけで私も先生になりたいと思ったのです。そのとき『先生はどうやって先生になったんだろう?どんな人生を歩んできたんだろう』って、ふと興味がわいたんです。」

それ以降、三浦先生は偉人の伝記を読み漁ったり、自分が尊敬するスポーツ選手に実際に会いに行ったりして、いろいろな人の生き様や人生観を学ぶようになったそうです。そのことは、三浦先生が人生のターニングポイントに立ったときにとても参考になりました。だから、子供たちにもたくさんの人の生き方やものの考え方を知ってほしい。そう思って現在の道徳授業の実践をしていると言います。

「授業では、著名人や地域の方にゲストティーチャーとして学校に来ていただき、できるだけ生の声を子供たちに届けるようにしています。『自分もこの人のようになりたい!』といった“人生モデル”が見つけられると、自分の目標ややりたいことが、具体的に見えてくるんですよ。」

三浦先生がもう一つ力を入れているのが、「全校道徳授業」です。昨年は、体育館で教職員が「いじめ」をテーマにしたオリジナル劇を披露し、全校児童でいじめについて意見交換を行いました。

「よくある学校の日常生活を劇で再現し、『これはいじめだ』と子供たちが思ったら『STOP!』と声を掛け、そのいじめ行為をしている先生の身体にSTOP カードを貼らせました。劇が終わる頃には、体中がSTOPカードだらけで…。普段の心ない言動が人の心を傷つけてしまうことに子供たちは気付きました。」

この全校道徳のよさは、「当事者では分からないことが、他人の行為を客観的に見ることで分かり、全校でこれはいじめにつながる行為だと共通理解をすることができる」と、三浦先生は語ります。

 

道徳教育が子供たちに与える力とは?

現在、三浦先生は道徳教育の講師として、県内各地で飛び入り道徳授業をしたり研修会でお話をしています。そんな中で、道徳を子供たちに教える難しさも実感していると言います。

「他教科とは違い、道徳はやればやっただけ成果が出るものではありません。たった40 ~ 50 分で、子供の心をすぐに育てることはできないんです。でも、共に考えることはとても大切なことです。どうすれば乗り越えられるのか。どうすれば助けてあげられるか。本気になって知恵を絞り出し合い、より良い判断・行動を探っていくことは、今後の子供たちの人生に必ず役に立ちます。」

道徳の授業はなぜ必要なのか――この難しい問いに、三浦先生は一つの答えになるようなエピソードを話してくれました。

「あるとき、昔の教え子が私に会いたいと、連絡をくれました。私が担任だったのは6年生の頃で、その子はもう22 歳になっていました。」

話を聞くと、ある事情からその子が大きな壁にぶつかり苦しんでいることが分かったそうです。「ただ彼は、私に答えをもらいたかったのではなく、確認をしたかったのです。『先生が、道徳の授業で言っていたこと、あれ本当ですよね。あきらめなければ、チャンスは必ずやってくるって。俺もやり直せる?』と。そのとき私は思いました。道徳とは、心に種を植えることかもしれないと。すぐには目に見えなくとも、目の前に壁が立ちはだかったとき、それを乗り越えるエネ
ルギーや希望を心に芽吹かせてくれるのが、道徳の持つ力なのではないかと思ったんです。私が『もちろんだよ』というと、彼は安心したように笑っていました。」

 

カリスマ三浦先生 顔

Profile
三浦貴子
1970 年8月16 日生

1991年3月…大学卒業
1991年4月…千葉県木更津市立木更津第二小学校
2000年4月…千葉県富津市立環小学校
2008年4月…千葉県富津市立大貫小学校(現職)

趣味
テニス・創作料理&お菓子作り(ストレス解消)

好きな言葉
一所懸命「ひとつひとつの所で全力を尽くす」

教セミちゃんねる 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご紹介