ICTが創る新しい学び

授業におけるタブレット端末の活用と情報モラルの育成

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東京都江戸川区立篠崎第二小学校

昨今では、書画カメラやデジタル教科書、タブレット端末など、授業にICT機器を活用する学校が増えてきました。インターネット上の膨大な情報や通信機能は、上手に活用すれば心強い味方となりますが、一方で個人情報の漏えいや利用者間のトラブルなどのリスクも併せ持っています。こうしたインターネットの特性を踏まえた上で、今後どのようにICT教育を進めていくべきなのか、東京都江戸川区立篠崎第二小学校の北浦明人先生にお話を伺いました。(文・澤田 憲)

 

子供と学校を脅かす「ネット炎上」の被害

最近、ニュースなどで「炎上」という言葉をよく見かけるようになりました。ここでいう炎上とは、「Twitter」などのSNSやブログにおいて、個人や組織の発言や言動に対し、不特定多数の人から批判や誹謗中傷のコメントが殺到する状況を指します。小さな火種が、インターネットを通じてあっという間に拡散され、収拾がつかない事態にまで発展する様子は、まさに火が燃え広がるかのようです。

「炎上」をめぐる問題は、学校関係者にとっても他人事ではありません。携帯電話やスマートフォン、携帯ゲーム機などを通じて、子供たちがごく簡単にインターネットにアクセスできる現在、デジタル空間における児童生徒のトラブルや犯罪被害が急増しているからです。

その根本にあるのは、「自分の言動が他人に見られている」という意識の不足です。インターネット上では対面の必要がないことから、自分の考えを自由に、手軽に発信できる良さがあります。一方で、そうした“匿名性”ゆえに、相手に対して心ない言葉を発してしまったり、不特定多数の人間に個人情報を晒してしまったりといったトラブルが後を絶ちません。

こうしたインターネットの特性や功罪を踏まえた上で、これからの学校には情報リテラシーと情報モラルの両面からICT教育を進めていくことが求められています。

 

タブレット端末を活用した3つの授業実践

東京都江戸川区立篠崎第二小学校では、2014年度から授業におけるICT機器の本格活用を始めるとともに、文部科学省が実施する「子供のための情報モラル育成プロジェクト」に参加し、子供たちがネット被害にあわないための啓発活動やルールづくりに取り組んできました。

学校におけるICTの活用で、最近トレンドとなっているのが、タブレット端末の活用です。同校の情報推進リーダーを務める北浦先生は、「授業にタブレット端末を取り入れることで、子供たちがより主体的に学べる環境を整えられます」と、その意義を説明します。

P133_1北浦明人先生

「自分の答えに自信が持てない児童は、挙手・発言することをためらいがちです。しかし、タブレット端末を使うことで、どの児童も自分の意見を発表できるようになり、より積極的な授業参加を促すことができます。」

同校では、大きく3つの方法で授業においてタブレット端末を活用しています。1つ目は、株式会社ネットマンが提供する「C-Learning」です。同社から、「iPadmini」を児童用に35台、教員用に2台貸与してもらい、授業中の発表や意見交換のツールとして活用しています。

「『C-Learning』には、『協働板』と呼ばれる掲示板機能があり、そこに子供たちの発言が一覧表示されるようになっています。これまでの授業では、発表に積極的な数人の児童を中心に授業を進行していくことが多かったのですが、『協働板』を使えば、普段は控え目で手を挙げない児童も意見を出すことになります。また、『協働板』で児童同士が意見交換をすることもできるため、より多様な考えや意見を引き出すことができるようになります。」

また、教師は自分のタブレットから、子供たちの回答や感想をリアルタイムに確認できます。こうしてクラス全体の状況が“可視化”されることで、内容が理解できずに困っている子供に、すぐ対応することが可能になります。

2つ目は、タブレット端末にインストールされた、ラインズ株式会社が提供するドリル教材「ラインズeライブラリアドバンス」の活用です。朝学習の時間やちょっとした時間ができた時などに、児童が自主的にタブレット端末で計算問題に取り組めるようにしています。

「子供たちが解答をすると、端末が自動採点をしてくれるので、まるですぐ隣に先生がいるような感覚で問題と向き合えます。また、個人の学習記録が蓄積され、解いた問題数に応じてメダルがもらえたり、マイページの絵柄が変わったりする仕掛けも、子供たちのやる気を高めています。中には2カ月間で700問を解いた児童がいて、開発会社の方も驚いていました。」

導入前に比べ、学級におけるテストの平均点が3%も上昇するなど、学力も目に見える形で向上しています。特に下位の児童の得点力が大きく伸び、学習のモチベーション向上に役立つことが実証されています。

3つ目は、株式会社ジャストシステムが提供する『スマイルゼミ』の活用です。同社との共同研究により試験的にタブレット端末60台を無料貸与してもらい、今年度は算数のみ、学習の補助ツールとして活用しています。高学年の習熟度別算数の授業に導入され、既習学習の復習に役立っています。

「タブレット端末の利点は、より個々人の到達度に沿った授業展開ができる点です。紙のプリントを配布する場合は、難易度を平均的にせざるを得ませんが、タブレット端末を利用すれば、前学期に履修した内容の問題を織り交ぜるなど、個人の習熟度に合わせて課題を出すことができます。ベースの指導方法は変わりませんが、情報の量や幅が広がることで、よりきめ細やかな個別指導が可能になるのです。」

 

親の知らぬ間に忍び寄るネット犯罪の恐怖

こうして、ICTを活用した学習展開を進める一方、同校では「情報モラル教育」にも積極的に取り組んでいます。内閣府が行った「平成25年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、携帯電話を持つ子供の割合は年々増加しており、高校生は97.2%、中学生では51.9%、小学生でも36.6%が携帯電話を所有しているという結果が出ています(下グラフ参照)。また、携帯電話やスマートフォンだけでなく、携帯ゲーム機や音楽再生プレイヤーなどの通信機能を利用してインターネットに接続するなど、保護者が気づかないところで不特定多数の人と連絡を取り合っているケースも多いと北浦先生は語ります。

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「小学生で一番多いトラブルは、ネットワークゲームでの課金です。クレジットカード決済で、ほしいアイテムを際限なく購入してしまい、何十万円もの請求が保護者に来たという事例が多いと聞きます。また、ゲーム内の通信機能を利用して、小学生になりすました大人からアプローチされ、犯罪に巻き込まれるケースもあります。教師も保護者も、子供たちがネットを介して簡単に外部の人間とつながれてしまうことの恐ろしさを、もっと知らなければなりません。」

こうした経緯を踏まえ、同校では2015年4月から文部科学省が実施する「子供のための情報モラル育成プロジェクト」に参加。教員や保護者向けの研修会を定期的に実施しているほか、ホームページなどを活用して情報発信を行い、家庭におけるネット利用のルールづくりにも積極的に取り組んでいるそうです。

「ネットを介したトラブルや事件に巻き込まれるのは放課後、つまり学校外で過ごす時間においてです。だからこそ、各家庭の協力は不可欠です。有害サイトにアクセスできないようにフィルタリングソフトを導入するなどの措置も必要ですが、『夜9時以降は携帯電話やゲーム機を使わない』など、家庭で話し合ってルールを作るなどの取り組みが求められます。何より、そうしたことを親子で話し合い、コミュニケ―ションを取ることが、一番の被害防止策になるのです。」

「子供のための情報モラル育成プロジェクト」とは?
文部科学省では、「子供のための情報モラル育成プロジェクト」において、スマートフォン利用について家族で考えることを提案するスローガンとロゴマーク(下図) を作成し、関係団体と協力して子供たちの情報モラルを育成する取組を推進している。P135バナー

ネット社会を生き抜くための情報モラル教育

情報モラル教育では、ネット犯罪の被害を受けないための防止策のほかに、子供同士のコミュニケーションの改善にも力を注いでいます。

先述したタブレット端末による「協働板」への書き込みのように、デジタル空間では気軽に発言がしやすくなる一方で、対面でのコミュニケーションに比べて言葉が乱暴になりがちです。また、些細なトラブルから、特定の子供の発言を無視したり、集中的に非難するコメントを浴びせたりするなどの、“ネットいじめ”にも注意しなければなりません。

このようなトラブルを防ぐために、同校ではLINE株式会社から講師を招き、高学年の児童を対象に講演会を実施しています。講演会では、SNSの安全な使用方法や、利用者間のトラブルを防ぐために覚えておきたいことなどをクイズ形式で学習。また、ボールを使ってキャッチボールを行い、コミュニケーションも同じように、相手の立場や気持ちを想像して言葉を投げなければならないことを、体感的に学べるようにしました。

また、安心安全ネット推進協議会の紹介により、低学年の児童を対象とした講習会も実施。絵本やロールプレイングを通して、「友だちのことも考えて、自分も行動する」ことの重要性を子供たちに伝えました。

「ネット社会というと、現実社会とはまるで違う場所のような気がしがちですが、コミュニケーションの基本ルールは一緒。現実社会でのルールが守れない子は、ネット社会でも守れません。だからこそ子供向けの講習では、情報機器の使用方法ではなく、まず規範意識を育てることに重点を置くべきだと考えます。いかに道徳心や公徳心をもって情報機器を扱えるかが、これからの時代に問われる情報スキルになるのではないでしょうか」と、北浦先生は語ります。

P135LINE 株式会社による情報モラル講座

ネットの功罪を踏まえた今後のICT教育の目標

同校では、今後もICTを学校教育に積極的に取り入れ、その利点を最大限に活用していきたいと考えています。

「現在は、『何を教えるか』という知識偏重型の教育から、『どのように学ぶか』という学びの質や深まりを重視する教育への転換期を迎えています。いわゆる『アクティブ・ラーニング』の環境づくりを手助けするツールとして、タブレット端末は非常に有効です。これまでに蓄積してきたアナログ的なノウハウと、タブレット端末等のデジタルツールを融合することで、さらなる学力向上を目指すほか、全児童・全教員がもっと手軽にICT を活用できるよう、環境づくりを進めていきたいと考えています。」

そして、同校のもう一つの目標は、ネット社会の危険性を子供たちに伝え、事件やトラブルに巻き込まれないようにしていくことです。

「ネットでの犯罪やトラブルは“いたちごっこ”で、次から次へと新しいタイプのものが出てきます。だからこそ私たち教員も、セミナーに参加するなどして情報をアップデートしていく姿勢が求められます。子供たちが被害にあわないよう影でサポートしつつ、安全に楽しくネットを活用できる環境を整備していくことが、今後の目標です。」

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