学校不祥事の顛末

ホームセンターで万引き

【今月の事例】
ホームセンターで万引き
A県教育委員会は、万引きで逮捕されたB市立小学校の男性教諭を懲戒免職処分にしたと発表した。男性教諭は、同市内のホームセンターでカー用品など7点(計約5,900円分)を万引きした。警備員に店外で声をかけられたが逃走し、追いかけてきた店員に取り押さえられ、警察に窃盗容疑で現行犯逮捕された。窃盗罪で略式起訴され、罰金20万円の略式命令を受けた。過去にも同じ店でスプレー缶など5点(計約2万200円分)を万引きしていた。

 

【法律家の眼】

“常習性”のある犯罪行為
示談には応じてもらえない可能性が大

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 万引きは犯罪

言うまでもなく、万引きは窃盗という犯罪です。

刑法第235条
(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

万引きは非行の入口と言われています。教員の皆さんも「もし、児童生徒が万引きしてしまったらどう指導しようか」と日頃から考えているかもしれません。しかし、万引きで捕まるのは児童生徒だけではなく、残念ながら教員による万引きといった不祥事も後を絶ちません。

 

2 万引きの動機

◯少年の場合
万引きをした少年に動機を聞くと、「お金がなかったから」「欲しかったから」「ゲーム感覚で楽しかったから」「友達に誘われたから」など短絡的な答えが返ってくることが数多くあります。
次に「なぜ万引きをしてはいけないか」と質問すると、多い回答は「捕まるから」で、本質的に何がどういけないのかを説明できないケースが多々あります。なぜ万引きがいけないことなのかを理解していないのですから、総じて罪の意識も薄く、そうした場合は再犯のおそれを感じざるを得ません。

◯成人の場合
少年と比較すると、成人の場合、所持金が十分あるのに万引きをするケースが見られます。なぜ所持金があるのに万引きをしたのかと質問すると、「お金を減らしたくないと思った」「ばれないと思い、つい魔がさした」「精神的ストレスがあり、気付いたらレジを通り過ぎていた」「仕事が忙しく寝不足で無意識だった」など、少年の場合と同様、被害を与えていることに思い至らず、罪の意識が薄いとしか考えられない言い訳が聞かれます。

 

3 後からお金を払えば許されるのか

万引きをして捕まった場合、その場で所持金から代金を支払えば見逃してもらえると思ったら大間違いです。被害者である事業者にとって、万引きは経営を揺るがしかねない犯罪であり、だからこそ万引き対策として、防犯カメラの設置、監視員・警備員の配置などの努力をしているのです。実際、示談交渉には一切応じない方針をとる事業者も珍しくありません。「見つかったらお金を払えばいい」といった安易な考えは、通用しないと思ってください。

 

4 追いかけてきた店員に怪我をさせたら

本事例では、追いかけてきた店員に取り押さえられたとのことですが、店員ともみ合いになって怪我をさせたら、強盗致傷罪の成否が問題になります。たとえはずみだったとしても、万引きとは比較にならない重い罪を負う可能性も出てくるのです。

刑法第240条
(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

 

5 常習性

万引きの特徴の一つに「一度やってばれなかったから、またやってしまった」といった常習性が挙げられます。本事例でも、過去に同じ店舗で万引きをしていたとのことですから、今度も見つからないだろうと安易に考え、犯行に及んだと思われます。繰り返すたびに罪の意識が薄れていくとしたら大変恐ろしいことです。

 

6 万引きをしない・させないために

もし児童生徒が万引きをしてしまったら、皆さんはどう指導しますでしょうか。少年でも成人でも、万引きをしてはいけない理由に違いはありません。事業者にとって万引きの被害が非常に大きいこと、万引きは他人の努力を横取りするのと同じ行為であること、万引きをしたら家族や周りの人に迷惑をかけ悲しませることなどを児童生徒に理解させるとともに、自らを律していくことが皆さんに期待されています。

 

【教育者の眼】

“範”として振る舞うべき教師の犯罪
子供たちは誰を信じればよいのか

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■教育活動の土台は、児童生徒・教師間の信頼関係

今回の事例は、小学校の男性教諭による万引き行為。これは、刑法が定める「窃盗罪」という犯罪行為です。「教育は人なり」と言われるように、教育を司る教師は、自らが子供たちの範として、また社会人の範として、振る舞わねばなりません。高い専門性と豊かな人間性を備えてこそ、初めて次代を担う子供たちを教え導くことができるのです。
教師は「道徳の時間(道徳科)」を要とし、人を傷つけたり、人の物を盗んだりといった反社会的行動をしないよう、道徳教育や心の教育に日々取り組んでいます。その土台となるのは、児童生徒・教師間の信頼関係です。それがあるからこそ、道徳的な教育を深めていくことができます。しかし、教師がひとたび「万引き」などという犯罪行為を起こしてしまえば、一瞬にして信頼の絆は切れ、多くの子供は“人間不信”に陥ってしまいます。教師の軽率な犯罪が、子供たちの心の傷となり、その後の人生にも影響してしまうことを忘れてはいけません。同様のことは、保護者や地域の方々についても言えます。

 

■懲戒免職だけでなく、実名報道による社会的制裁も

教師には毎月一定額の給料が支払われ、基本的に生活に困窮することはありません。にもかかわらず窃盗罪を犯す教師は、少なからずいます。背景には「見つからなければ問題ない」「少額だから大丈夫」といった安易な考えがあるのでしょう。
加えて本事例の教員は、警備員から逃走しようとしています。そうした人間が、日頃子供たちに「心の教育」を指導していたかと思うと、強い憤りを覚えます。学校教育全体の信用を著しく傷つけたことからも、地方公務員法第33条が定める「信用失墜行為」に該当し、懲戒免職となるのは当然でしょう。懲戒免職の場合、実名で報道され、社会的な制裁も受けるわけで、安易に犯した行為の代償は計り知れません。

 

■求められる規範意識

こうした事件を起こした人は、よく「魔が差した」と言います。果たしてそうなのでしょうか。本事例の場合、逃走している様子からも、悪質性は高いでしょう。まさしく、「規範意識の欠如」以外の何ものでもありません。
前回、公金横領の事例を見ましたが、教師は教育活動に関わる金銭を保護者から預かることがあります。また、学校には教育活動の充実のため、税金で購入した備品等が数多く置かれています。規範意識が欠如した教師がいるとなれば、そうしたお金や備品は大丈夫だろうか、私的に使い込んだり持ち帰ったりしてないだろうか…と考えてしまいます。そうなれば、学校の日常業務、身近な所からの犯罪の芽を摘み取っていく労力も必要となってきます。

 

■信頼される教師

万引きなどという罪を犯さないためにも、教師を目指す人には教職が崇高な仕事であることを自覚し、専門性と人間性を高めてほしいと思います。一方で、ストレスが犯罪の要因となることもあります。ストレスには個人的・家庭的なものもありますが、それが職場的なものであれば、業務を計画的に行う、一人で背負わずにチームとして動く、休むときにはしっかりと休むなどの予防・解消策を心掛け、互いに声をかけ、相談し合える職場環境づくりを心掛けてほしいと思います。そして、信頼される教師の前提条件は「法の遵守」であることを自覚しておいてください。

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