ICTが創る新しい学び

「未来の教室」×ICT 先進校が提唱する 新しい授業デザインによる主体的な学び

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筑波大学附属小学校

言語脳5年先、10年先の教室や授業は、どのようになっているのか、教師の卵たちにとっても気になるところです。そんな実証実験を進めているのが、国立大学法人筑波大学附属小学校。
学校教育とICT 活用の可能性について、同校の山本良和先生にお話を伺いました。
(文・野本 由起)

最先端のICT 機器を備えた「未来の教室」

筑波大学附属小学校では、2013 年から(株)内田洋行との共同で「未来の教室」を設置し、最先端ICT機器を活用した実証研究を進めています。同教室に設置されているのは、40 台のタブレット端末と電子黒板を含む5面のマルチスクリーン、ワイヤレスネットワーク環境等々。政府が掲げる「2020 年までに小・中学校で1人1台のタブレット端末を整備」という目標を軽く飛び越え、その先を見据えた先進的な研究開発に取り組んでいます。

同校では教科担任制を採用していることもあり、その強みを生かして、教科ごとに創意工夫を凝らしたICT 機器の活用が行われています。例えば算数では、文章題をデジタル紙芝居にアレンジして電子黒板に表示。イラストやアニメーションを用いることで視覚的なイメージを与え、子供たちの理解を深めています。紙芝居は児童一人一人の手元にあるタブレット端末でも確認できるため、理解するまで何度も繰り返して視聴できます。

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同校のICT 研究部の部長であり、算数科の主任である山本良和先生は、授業でタブレット端末を活用する利点の一つを次のように語ります。

「タブレット端末を使用することで、児童が答えを導き出すまでの“途中経過”を確認できます。例えば、児童がタブレットと組み合わせて使うデジタルペンで問題に答えます。その際、リプレイ機能を使うと、どのような順番で問題を解いたのか、途中経過を一目で把握できます。

具体例を挙げると、算数の授業でテープ図(線分図)を使って問題を解く場合、児童が最初にどの数値を使って図を書いたか、教師用パソコンから全児童の途中経過を把握できます。『500 円を持っている人が340 円のおつりをもらった、使ったのは所持金の何割でしょうか?』という問題ならば、初めに所持金の500 円から図を書き始めるはずですが、その出発点が間違っていないかを確認できます。

また、複数の児童の解き方をスクリーンに投影し、その違いを見比べることもできます。児童の学習プロセスを把握することは算数以外の教科でも重要で、“結果重視”から“プロセス重視”の授業へと移行するにあたり、ICT は大きな役割を果たすでしょう。」

幅広い教科でICT を活用

同校では、あらゆる教科、あらゆる活動で、ICT機器が活用されています。国語では、デジタル教科書に書き込みをしながら授業を進めることもあります。指示語が何を指しているか、修飾語がどこにかかっているかなど、文字を囲んだり傍線を引いたりと視覚に訴えながら長文を読み解くことで、児童の理解は深まります。

デジタル教科書の利点の一つは、紙の教科書と違い、何度も書き込みと消去が可能な点です。例えば、児童に「大事だと思う箇所に赤線を引いてね」と指示した場合、紙の教科書では間違った場合に消せませんが、デジタル教科書では何度もやり直しが可能です。

理科では、実験を行う教師の手元をスクリーンに拡大して映し出したり、ある地域に固有の動植物を写真や動画で紹介したりするなどしています。また、社会科ではGoogle アースを使って、日本や世界の地理を学ぶ授業なども行っています。

また、実技系教科でもタブレット端末を活用した授業が積極的に行われています。例えば図画工作では、児童の制作過程を映像で録画・視聴したり、タブレット端末に表示された簡単な図形から絵を描いたりする活動が行われています。また、音楽ではタブレット端末から流れる伴奏に合わせて合唱したり、アプリを使って作曲したりといった授業が行われています。タブレット端末から音楽を流せば、ピアノ伴奏とは違い、教師が児童の近くに行って指導することも可能です。

「ICT の活用はさまざまな教科で行っていますが、その中でも特に効果を実感しているのは、国語と算数です。指導内容が明確な授業ほど、タブレット端末の利用に適していると思われます。一方、図画工作や音楽は正解がない教科なので、電子黒板に児童の作品やその製作工程を映し出したときに『これが正解』と捉えられないような工夫が必要です。ICT の活用は、各教科の特性や授業の目的を考慮した上で進めていく必要があります。」

ICT は教科の“本質”を捉えて利活用する

タブレット端末を導入する場合、ともすれば“タブレットありき”で授業内容を組み立てようということになりかねません。しかし、タブレット端末が“目的”になってしまっては本末転倒です。ICT 機器はあくまでも“ツール”であり、それに振り回されることなく、授業の目的やねらいを明確にした上で、必要だと判断した場合に授業に取り入れるべきだというのが同校の考え方です。山本先生は「教科の本質を伴わないICT の利活用には意味がない」と断言します。

「本校では10 年以上も前から電子黒板を活用しています。今では、全教室に設置していますが、すべての授業で利用しているわけではありません。タブレット端末や電子黒板は、数ある教材・教具の一つに過ぎず、それを活用するのは、目的を達成する上で“有効である”と判断した場合のみです。『未来の教室』についても、いつ使用するかは時間割に組み込んでおらず、そこを使用することで大きな効果を生むと個々の教員が判断した場合に活用しています。例えば電子黒板は変化する情報、ホワイトボードや黒板は残したい情報を書くのに適しています。こうした教具の特性を生かし、一つの授業の中で効果的に使い分けていくことが重要です。大切なのは、その授業で何を教え、どんな力を伸ばしたいかと考えること。アナログツールではできなかった授業をデジタルツールとの融合で実現し、児童に知的な刺激を与えていくことが重要だと考えています。」

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 「ICT の活用は、各教科の特性や授業の目的を考慮した上で進めてく必要がある」と話す山本良和先生。

 

 ICT ツールの活用において、山本先生が忘れてはならないと指摘するのは、ICTの“C(Communication)”の部分です。「未来の教室」には1クラス分のタブレット端末がありますが、授業は必ずしも“1人1台”で進めるわけではありません。あえて2人で1 台、あるいは数人で1台のタブレット端末を共有する形で、進めることもあります。その背後には、“コミュニケーション”を深めるという狙いがあります。

「1台のタブレット端末を何人で使うかによって、授業のデザインが変わってきます。例えば、計算力を高めるならば、1 人1台が効果的かもしれません。しかし、プロセスを重視する学習の場合などは、あえて1台を2人で共有し、交互に問題を解かせた方が効果的な場合もあります。数人で1台のタブレット端末を囲めば、そこに意見の食い違いが生まれ、『そこ違うよ!』『その順番で解くの?』などの会話も生まれるはずです。そうした対話を通じて、子供同士が正しい解き方を教え合うことで、言語力や表現力も身に付きます。タブレット端末を介して児童間のコミュニケーションが活性化すれば、能力のさらなる伸長を図れる可能性もあります。」

一方で、児童にとってタブレット端末は、“遊び道具”のように映る側面もあります。授業中、操作に夢中になったり、授業への集中力がそがれたりすることはないのでしょうか。

「もちろん、最初は物珍しさから『触りたい、触りたい』と言ってきます。しかし、それは初期段階に限った話です。あっという間に、タブレット端末が当たり前の道具の一つになっていきます。そもそも、今ではパソコンやタブレット端末は家庭でもかなり普及していて、それがあまり普及していないのは学校ぐらいです。“タブレット端末に触っていい時”と“先生の話を聞く時”といった形でルールを設け、その都度指示をする必要はありますが、それが浸透すれば、混乱することなく授業を進行できています。」

ICT 化が進む今こそさらなる教材研究を

ICT ツールの導入は、教師にとってもメリットがあります。一つは、教材の幅が広がる点です。同校では、内田洋行が開発した教材作成ソフト『スクールプレゼンター』を活用し、オリジナルの電子教材を作っています。

「『スクールプレゼンター』は、アプリの開発段階から本校の教員が『こんな機能がほしい』と内田洋行に働きかけて作り上げた、教師主体のアプリです。10円玉などの硬貨、人物や果物などの教具やイラストのスタンプが収録されており、これらを使えば簡単に教材を作ることができます。例えば、算数の時計や量り、分度器などを使う問題は、苦手な児童が少なくありませんが、このアプリを使えば時計の針をアニメーションで進めたり、量りを動かしたりでき、視覚的に理解できます。

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 最初は珍しがっていた児童も、日常の道具の一つとしてタブレットを使いこなすようになっていきます。

 

もう一つのメリットは、教材をデータベース化できる点です。紙の教材と違い、電子教材は劣化しません。一度作った教材をデータベースとして蓄積・共有し、他の教師が作った教材を自分が使いやすいようにアレンジしたり、効率化・省力化を図ったりできます。

「学級担任制の学校で、1 人の教師が全教科の教材を用意するのは大変です。でも、電子教材の利用が進めば、その手間もかなり軽減します。また、データベースから上手に必要な教材を活用すれば、新任の先生でもベテラン教師に負けない授業ができます。」

一方で、電子教材に頼りすぎることへの懸念もあると言います。2年前、韓国の学校に招かれて研究授業を行った山本先生は、現地の学校関係者から意外な事実を告げられました。早くからICT の導入に取り組んできた韓国では、現在すべての小・中学校で電子教科書を採用していますが、結果として電子教材をなぞるだけの情報伝達型授業が増え、教師の授業力が落ちたというのです。

「用意された電子教材をただ使うだけでは、教師からの一方的なプレゼンテーションになりかねません。情報伝達型授業では育つべき力が育たず、“教え込み”になってしまいます。そうならないため、私たち教師はより高度な教材研究を行うべきでしょう。教科ごとに児童生徒への効果を検証し、授業をデザインする。より分かりやすい教材の開発に取り組む。板書計画を見直す。ICT の導入により効率化される部分はありますが、受け身の姿勢ではなく、これまで以上に主体的に授業に臨むことが、教師サイドの課題となるのではないでしょうか。」

ICT 活用の研究開発に取り組み、公開授業やワークショップ、セミナーなども開催する同校。今後の「未来の教室」の利活用について、山本先生は次のように語ります。

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「『未来の教室』には、前方と左右に計5面のマルチスクリーンを設置していますが、これまで同時に使用したのは最大3 面までです。今後はさらに増やし、例えば1スクリーンに1グループを集めて課題に取り組むグループ学習をするなど、マルチスクリーンを最大限に活用した授業などもデザインしていきたいと考えています。また、タブレット端末の双方向性を活かした使い方も、さらに研究を進めていきます。例えば、1 人の児童のノートをクラス全員のタブレット端末に映し出し、そこに直接書きこみをするような授業は、アナログではできません。ICT 機器を通じて、人間同士のコミュニケーションが深まるような取り組みを推進していきたいと考えており、本校が先行的に効果を実証することで、その授業事例を全国に発信していきたいと思っています。」

 

内田洋行株式会社 スクールプレゼンター
http://school.uchida.co.jp/index.cfm/19,639,73,288,html

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