編集長コラム

学校は法律じゃない 知恵とアイデアで動いているんだ!?

毎学期末に渡される成績表を何と呼ぶ?

日本の学校では,毎学期末に「ある物」が教員から子供を経由して保護者に渡されます。「ある物」とは,子供の成績が記された書面です。5段階もしくは3段階の評価の他に,先生の短いコメントなども付されています。さて,「ある物」とは何か,お分かりでしょうか?

「そんなもん,決まっているだろ。バカにするのもいい加減にしろ!」

そんな声が聞こえてきそうですが,決して回答は一つではないはずです。

「通知表。」

そう答える人が多いでしょうが,ある人は「通信簿」と答えるかもしれません。文字にすれば「通知票」と「票」の字を使う人もいるでしょう。果たして,正式名称は何なのでしょうか。

試しに,日本の法律全文が登載された「法令データ提供システム」というWebサイトで検索すると,「通知表」も「通信簿」もヒット件数は0件。唯一,「通知票」はヒットしますが,載っているのは「捕虜収容所処遇規則」内の条文。学校教育とはまったく関係のない,別のものを指す言葉のようです。法令に記載がないというのは,一体何を意味するのでしょうか。実を言うと,通知表は法律に位置付けられた制度ではなく,学校が任意で作成している書類なのです。任意ですから,極端な話をすれば,作成しなくても問題なく,実際にそうした学校もあります。形式も自由で,名称も自由。学校や地域によって,「通知表」「通信簿」「あゆみ」など,多様な呼び方がされているのはそのためです。

 

「慣例」だらけの学校教育

通知表は,任意のものであるにもかかわらず,全国のほぼすべての学校で作成されています。法律に定めがないのに,全国津々浦々で共通の仕組みになっているとは,考えてみたら不思議な話です。

実を言うと,日本の学校教育には,こうした例が少なくありません。例えば,家庭訪問がそうです。法令に「教諭は年1回,担任する児童生徒の家庭を訪問しなければならない」といった記述はどこにもありませんが,毎年4〜5月頃には,全国各地の先生が児童生徒の家庭を回って歩いています。また,授業参観も同様で,保護者等への授業公開が,法令で義務付けられているわけではありません。校長先生が発行する「学校だより」,担任の先生が発行する「学級だより」などもそうで,発行する・しないは個人の裁量に任されています。

これらの取り組みは,いわば慣例的に行われているものであるため,法改正等がなくとも,時代背景に伴って変容していきます。例えば,家庭訪問の場合,最近は家庭のプライバシーに配慮して,玄関先で済ませるケースが多くなってきました。また,共働き夫婦との日程調整が難しいことなどを理由に,家庭訪問自体を取りやめてしまう学校も少なくありません。

もちろん,法令の定めに則って行われている取り組みもあります。その一つが指導要録です。通知表とは異なり,こちらは歴とした法定文書。出席簿や健康診断票などと同じく,「備えなければならない」ものとして学校教育法施行規則の第28条に明記されています。

また,国レベルの制度ではないものの,自治体レベルの制度として規定されているものもあります。例えば,学期がそうです。年度が「4月1日から3月31日まで」というのは国レベルでの規定ですが,その間をどう区切り,夏休みや冬休みをどう設定するか等は,基本的に各自治体が定めています。そのため,気候を考慮して冬休みを長めに設定している地域もあれば,短い秋休みを入れて「2学期制」にしている地域もあるのです。

2016年3月号_p139

 

普段から「法令」を意識することはほとんどない

このように,学校教育で行われている取り組みは,

①国(法令)レベルで実施が定められているもの

②自治体(条例や教育委員会規則等)レベルで実施が定められているもの

③学校が任意で実施しているもの

の3タイプに分類することができます。③に分類される通知表や家庭訪問が,まるで①のように全国規模で行われている点は,日本の学校教育の特徴と言えるでしょう。

通知表や家庭訪問の他にも,学校ごとに校則があること,先生が宿題を出すこと,夏休み等に読書感想文を書かせること等々,制度に定めがなくともほぼ全国共通の仕組みとなっているものは多々あります。これらはすべて現場の知恵として生まれ,“横”へと広がっていったものです。そして,そうした知恵やアイデアは,ベテランの教員から若手教員へと,“縦”にも受け継がれています。こうして見ると,学校教育を支えているのは法律・制度よりも,むしろ良き知恵として体系化された技能や技術だという見方もできるでしょう。

学校教員が日々の実務において,法律を意識することはほとんどありません。教育課程の内容を記した学習指導要領ですら,読み返すことはまれです。すなわち,法律を意識せずとも,先輩から後輩へ連綿と伝承されてきた知恵と技能があれば,教師としての仕事は十分に務まるのです。

「ならば,教員採用試験で教育法規について問う意味があるのか」と言う人がいるかもしれませんが,それとこれとは話が別です。教育基本法や学校教育法などの法規があるからこそ,公教育は一定水準のクオリティや秩序を保ち続けられるわけで,教師を志す人がその規定について学ぶことには,相応の意義があると思います。また,日々の教育活動で法律を意識することがなくても,何かしらのトラブルに直面した際には,法律的な知識が対応の拠り所となってくれることもあります。

教員採用試験の受験生の中には,「教育法規が苦手」という人も多いようですが,いずれその知識が自らの身を助けるかもしれないとの思いを持ちながら,学習に励んでほしいと思います。

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