学校不祥事の顛末

給食費1,535万円を着服

【今月の事例】
給食費1,535万円を着服
A県教育委員会は、会計処理を担当していた2校の給食費約1,535万円を着服したB市立中学校の男性教諭を同日付で懲戒免職処分にしたと発表した。
県教委によると、教諭は給食食材の発注を担当していた2008年10月から2014年5月にかけて、予算より安い食材を仕入れ、請求書などを偽造。浮かせた金を着服していた。今年6月に調理員が不正に気づき、発覚した。教諭は着服を認め、全額を返済している。

 

【法律家の眼】

期間・金額とも重大で悪質
全額返還しても懲戒免職は妥当

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 会計に関する不祥事

教員になると、教材費・修学旅行費・校外学習費・クラブ活動費・PTA 会費・同窓会費など、さまざまな会計を扱う立場になる可能性があります。これらはいずれも、保護者等から教員、公務員としての信頼の下で預かるものですから、「いつでも明確に収支を説明できるような管理」を継続する必要があります。
本事例は、約5年半にもわたり給食費から合計1,535万円もの金銭を着服したとのことで大変悪質であり、会計不祥事として処分されて当然と言えます。

 

2 民事上の責任

本事例は不法行為(民法第709条)に該当するため、男性教諭は着服した金銭(遅延損害金を含む)を返還する義務を負います。幸い全額が返還されたとのことですが、男性教諭が負う責任はこれだけではありません。

 

3 刑事上の責任

給食費を管理する職責を負いながら、自己の管理下にある給食費を着服した行為は、業務上横領罪(刑法第253条)に該当します。

(業務上横領)
第 253条  業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

 

単純横領罪(刑法第252条第1項)の場合、法定刑は5年以下の懲役です。これに比べ業務上横領罪の法定刑が加重されている理由の一つは「業務に基づく委託信任関係を破壊」する点で責任が重いことにあります。
業務上横領は、多額に上る被害額を返済できない場合、初犯であっても実刑の可能性がある重大な犯罪です。また、例えば、手持ちのお金が足りないので少しの間だけ融通してしまおうといった一時流用であっても、横領罪としては既遂になります。後から被害額を返還しても、犯罪の成立そのものに影響はありません。

 

4 公務員としての責任

こうした業務上横領については厳しい処分が下されます。本事例の男性教諭は被害額を全額返還していますが、そうした事情があったとしても、懲戒免職は決して重いとは言えません。

 

5 横領を防ぐには

本事例では、調理員が不正に気付いて横領が発覚しました。請求書の偽造といった小手先の操作をしても、事実を偽っているのですから、何をどうやってもどこかで辻褄が合わなくなります。このように、お金がらみの不正は絶対にごまかしきれるものではなく、事後的に調査をすれば必ず発覚します。
それを忘れ「1回だけなら…」という安易な気持ちで手を付け、発覚しないのをよいことに漫然と不正を重ねて、結果として多額の被害を出すに至るまで止められなくなってしまっては取り返しがつきません。
信頼の下で他人のお金を預かっているという意識を忘れないことはもちろん、会計を1人ではなく複数人でチェックし合うといった「システムとしての不祥事予防策」も講じていくべきでしょう。

 

6 「会計不祥事を見つけたかもしれない…」と悩んだら

本事例では、2校に渡って横領行為が継続されていました。もし、前任者から引き継いだ会計の内容に不正が認められた場合、皆さんならどうしますか。
「既に決算報告を済ませているが誰からも指摘がない」「面倒なことに巻き込まれたくない」「前任者に恨まれたくない」などの理由で、うやむやにしてはなりません。一人で抱え込まず、速やかに管理職へ相談する、内部通報を受け付ける窓口へ相談するなど、解決のために行動することをためらわないでください。

 

【教育者の眼】

「意識の甘さ」から生じる公金横領
防止に向けて学校は何をすべきか

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

 

■学校が保護者から預かるさまざまな公金

今回は、給食費に関わる不正処理による公金横領の事例、説明するまでもなく、明らかな犯罪行為です。この男性教諭が着服額を全額返済したからといって、許されるわけではありません。公金横領の罪として、「刑事上の責任」「民事上の責任」に加え、教育公務員としての「行政上の責任」にも問われます。
学校は、教育活動に関わるさまざまな徴収金を保護者から預かっています。本事例のような給食費の他に、遠足や林間学校、修学旅行の積立金、学年費や教材費などもあります。これらの徴収金は、学校教育の充実を図るために保護者から預かっている金銭であり、まさしく公金です。その取扱いは厳正に行わなければならず、保護者に対してはその用途や適正処理について、説明責任を果たしていかねばなりません。

 

■公金横領事件はなぜ起こるのか

本事例のような公金横領事件は後を絶ちません。動機には、「個人的な借金の返済に苦慮している」「ギャンブルなどで遊ぶお金が欲しい」などが多く、何らかのストレスが遠因になっているケースもあります。いかなる理由があろうとも、保護者から預かる金銭は「公金」であるという認識が不足していることで、こうした事件は起きるのです。
本事例の教諭について言えば、請求書を偽造するなど悪質性は高く、「全体の奉仕者」(日本国憲法第15条第2項、地方公務員法第30条)たる教育公務員としての自覚や責任は感じられません。発覚しなければ、その後も横領を続けていたことでしょう。

 

■世間から指摘される学校の認識の甘さ

たった一人の教諭がこのような事件が起こすたびに、すべての学校や教育関係者への信頼が失われていきます。本事例について言えば、5年以上もの長きに渡り、周囲が公金横領に気づいてなかったことも、大きな問題と言えます。世間から「学校は閉鎖的だから、常識外れの行動をしたり、意識が甘かったりする。それが見抜けない職場なのではないか」といった指摘を受けても仕方がない側面もあるでしょう。
この教諭は、「信用失墜行為の禁止」(地方公務員法第33条)に抵触し、懲戒処分の中でも最も重い「免職」となりましたが、学校が失った信用を回復するのは並大抵のことではありません。教諭たる者は、そのことを肝に銘じておく必要があります。

 

■事件の防止に向けて何をすべきか

こうした事件を防ぐためには、個々の教員が問題を一人で抱え込まないよう、助け合い支え合う職場の雰囲気づくり、風通しの良い職場づくりが求められます。誰もが個人的な悩みや問題を相談するのはためらうものですが、そうした雰囲気が職場にあれば、多くの事件は未然に防ぐことができます。
もちろん、徴収金の出納等については、複数の目によるチェック、管理職による最終的な決裁などの体制づくりを進めることも求められます。また、通帳等の整理・管理等を適正に行い、年度末には収支決算書等で報告するなど、保護者等に対していつでも説明できるようにしておくことも必要です。すなわち、常に保護者や地域の人たちに「見られている」という意識を
持つことが大切なのです。徴収した現金は、その日うちに銀行口座に払い込むなど処理のルール化を図ることも検討すべきでしょう。一方で、校内研修を通じた意識の啓発、メンタルヘルス対策としての教職員相談窓口等の周知徹底などの措置も必要です。

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