教師の本棚

『芸術を創る脳 美・言語・人間性をめぐる対話』

酒井 邦嘉=編 曽我 大介・羽生 善治・前田 知洋・千住 博
2013年/東京大学出版会
¥2500+税

 

プロとは何かを問い、自らを磨くためにも読みたい一冊

文・松井 貴子(東京都中野区立向台小学校副校長)

科学者の酒井邦嘉氏が、脳科学者の立場から『Ⅰなぜ音楽は楽しいのか』を指揮者・作曲家の曽我大介氏と、『Ⅱ なぜ将棋は深遠なのか』を将棋棋士の羽生善治氏と、『Ⅲ なぜマジックは不思議なのか』をクロースアップ・マジシャンの前田知洋氏と、『Ⅳ なぜ絵画は美しいのか』を日本画家の千住博氏との対談を通して、生きる活力としての芸術を見つめ、その共通点を浮き彫りにしています。マジックや詰将棋を「謎解きの芸術」と捉えているところが実にユニークです。

本書の論点は幾つかあります。第一に「人間」としての体験が芸術を生み出すということ。だから、芸術について語ることは、人間について語ることであると述べています。第二に、言語化が芸術の創作活動を支えていること。第三に、芸術は「対話」であるということ。音楽は指揮者と演奏家・聴衆との対話。将棋は対局者同士の対話。マジックはマジシャンと観客の対話。そして、絵画は画家と鑑賞者の対話と捉えています。対話の成立には、意識的にせよ無意識的にせよ言語化が根底にあること、芸術を生み出す創造力も人間だけが持つ言語機能を基礎としていることが本書を読むことで理解できます。

さらに本書では、対談の全体を通して、美的感覚は人間が持つ本質的な心の機能であると捉えています。千住氏が「芸術が“単に余暇を過ごす暇つぶしや何となく必要なもの”程度の存在だったら、芸術などという概念はとうの昔にすたれています」(『Falling Color』2006 年)と言うように、芸術は「楽しければよい」という程度のものではなく「生きる活力そのものである」という見方です。

本書の対談から、教師自身が情操教育を学校現場で行う際に基本として押さえておきたい大切なことが発見できます。多様な価値を認め、心豊かな人間関係を育む学級経営に生かすヒントが盛りたくさん詰まった1 冊です。

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