カリスマ教師の履歴書

File10 堀江 賢司先生(川崎市立川崎高等学校附属中学校)

数字の裏側にある「考え」を言葉にしてみよう

「数学は、必ずしも“数字”のみで考えるわけではない。」一見ありきたりな計算問題を、時間をかけて徹底的に考え抜く堀江先生の授業は、数学的なものの考え方を身に付けるためのさまざまな“言葉”に溢れていました。数学を魅力的に教えるコツは、どこにあるのでしょうか。

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文・澤田 憲

「対話」によって数学の表現方法を学ぶ

「例えば先ほど授業でやった一次方程式の問題は、答えを求めるだけであれば、ものの3分で終わりにできます。でも、それだけでは不十分です。数学的な表現力を育てるためには、自分が導いた解答に対する『な
ぜ?』の視点が欠かせません。」

正解か、不正解か。国語や英語とは異なり、必ず同一の解が求められる数学は、ともすれば「答えさえ合っていればよい」という考えに陥りがちです。「でも、本当にそれでいいのかな?」。授業中、堀江先生は何
度も生徒たちに問い掛けます。この日は一つの問題を解き始めてから、すでに20 分。計算するだけなら十分過ぎる時間が経過しています。

「その書き方だと、『方程式の解が問題に適している』ことの説明にはならないんじゃないのかな?」

黒板に書かれた式を見て、一人の男子生徒がつぶやきました。

「どうして?」

「Xの答えと問題の答えは必ず一致するわけじゃないから――。」

「……あ、そうか!」。男子生徒の発言を聞いて、周りの生徒たちも口々に自分の考えを話し始めます。

授業開始から30 分後。最初は数行の計算式しか書かれていなかった黒板は、生徒たちの“思考の足跡”で埋め尽くされていました。

「教室が静まり返っていては、生徒たちの頭も働きません。」

堀江先生は、数学の授業における“対話”の重要性をこのように語ります。

「黙々と問題をこなしていくだけでも、確かに計算力は身に付くでしょう。でも、それだけであれば我々教師は必要ありません。だからこそ授業では、一つの問題について時間をかけて話し合い、『なぜこの答えになるのか』を追求することに重点を置いています。」

その工夫は、座席の配置にも見られます。授業では、3人1組で机を横並びに配置し、真ん中の座席には数学が得意な生徒に座ってもらっています。

「グループ内で効率的に『学び合い』ができるよう、こうした座席配置にしています。たとえ答えが分からなくても、自分で考えたことや疑問に思ったことを互いに伝え合う機会が、生徒の学力を伸ばします。教師
の解説を聞いて納得するだけでなく、言葉にして発信することで、初めて問題の本質を理解することができるのだと思います。」

 

想像の羽を広げる「確かな知識」

学生時代から数学が大好きだったという堀江先生。「中学生のときから数学については“勉強する”という感覚がありませんでした」と言うほど、問題の解法を考える時間そのものが楽しくて仕方がなかったそうです。

その数学好きが高じて、大学では数学科を専攻。卒業後は数学科の教員として、川崎市内の中学校に赴任しました。以来、いくつかの学校で教鞭を執ってきましたが、途中1年間、川崎市の高津区にある総合教育センターで「長期研究員」として数学の授業研究に取り組んだそうです。

「数学の学習指導要領の中に、『原理・法則の理解に裏付けられた確かな知識及び技能を習得する』という一文があるのですが、改めて考えてみると難しい課題です。例えば数学で習う、『錯角』や『同位角』。それらを言葉として暗記しているだけでは、身に付いたとは言えません。どんな問題の過程で生まれた概念なのか、問題を解く上でどんな便利さがあるのかまで理解しないと、活用できるようにはなりません。一見、関係がないように思える問題でも、『もしかしたらあの解き方が使えるかもしれない』などと、関連付けができるようになって、初めて“確かな知識”が身に付いたと言えると思うのです。」

では、知識を生徒たちに身に付けてもらうためには、普段の授業をどのように工夫すればよいのでしょうか。その方法を探るため、堀江先生は総合教育センターを訪れる小・中学校の教員に検証授業を繰り返し行っ
てもらったそうです。そして、その授業内容を実際の学校の授業にも実験的に取り入れてもらい、児童生徒の反応を見ることで、効果や改善点を確認していったそうです。

このような授業研究は現在も続けられており、川崎市では各区単位で数学科の教員が頻繁に集まり、より良い授業内容について議論を重ねているといいます。

「授業は生もの。他の先生方から指摘を受けることで、磨かれる部分は大いにありますね」と堀江先生は語ります。

 

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最初から答えが分かったら面白くない

「数学が嫌いなんですが、どうすればいいですか?」授業をしていると、たまに生徒からこんな質問を受けるそうです。数学は知識を積み上げていく教科のため、どこかに「分からない点」が残っていると、分からないことが次々と広がっていき、数学嫌いになってしまいます。

「分からないから嫌いなのであれば、分からなくなった所まで遡って、原因を解消できれば、劇的に得点を伸ばすことが可能です。また、数学好きにさせるためには、簡単な問題に取り組ませて、「解けた!」という達成感を与えてあげることも有効です。ただし――」

そう前置きした上で、堀江先生は、最後にこう語ってくれました。

「難易度が高くなる高校以降の数学では、簡単には答えにたどり着けなくなります。それに、数学の本当の面白さって、答えにたどり着くまでの筋道を考える部分にあると思うんです。だからこそ、中学生のうちから、今までに修得した知識や経験をどう活用すれば、答えにたどり着けるのかを考える経験を積ませたい。それは日常で起こる問題に立ち向かう姿勢を養うことにもつながると思います。教育としての数学の意味は、そんなところにもあるのではないでしょうか。」

 

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Profile
堀江 賢司(ほりえけんじ)

1977 年3 月1 日生

2000年3月 ……大学卒業
2000年4月 ……神奈川県川崎市立川崎中学校に赴任
2008年4月 …… 神奈川県川崎市立はるひ野中学校に赴任
(2011年は川崎市総合教育センターにて長期研究員として研修)
2012年4月 …… 神奈川県川崎市立川崎高等学校に赴任
(川崎高等学校附属中学校開設のため中高一貫教育研究員として勤務)
2014年4月 …… 神奈川県川崎市立川崎高等学校附属中学校に赴任

趣味
ギター弾き語り

好きな言葉
明日は明日の風が吹く

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