教職感動エピソード

Vol.10 確認することの大切さ

大澤 修(元埼玉県公立小学校長)

エピソード

イラスト・佐藤 百合子

 

「先生! 動物園の門が閉まっているよ。」

「入口に誰もいないよ! 休みじゃないの?」

これらは、遠足で目的地の動物園に到着したときのバスの中で上がった子供たちの声です。

これらの声は、いったい何を意味するのでしょうか? 今だからこそ、その時の様子を書かせていただこうと思います。

私は40 年近く前に、新任として埼玉県西部地区にある小学校に赴任し、5年生の担任となりました。赴任してすぐの4月に、子供たちが楽しみにしていた「春の遠足」が実施されました。これは、その時に起こった出来事で、当時はたくさんの方々に非難され、学校としての大失態でした。

赴任した小学校は、児童数が1,500 名を超える、活気に満ちた大規模校でした。地域や保護者には、昔からの伝統や風習・人情などを大切にする人が多く、教育的環境にも恵まれていました。年度当初には、新年度の学年担任が集まって学年会を実施。この会では、学年目標・年間学校行事等の確認や4月の学年行事の細かい内容について話し合っています。もちろん、目の前に迫っている「春の遠足」についても、実施日・時程・係分担・諸注意等々に関して具体的に話し合いました。

遠足の目的地は動物園。話し合いの中で、下見をどうするかという話が出たのですが、「みんなよく知っている動物園だから、この忙しい時期に行かなくてもいいだろう」ということになり、実施されませんでした。

遠足当日の朝、これから何が起こるか知る由もなく、子供たちは新しいクラスの友達、担任の先生との遠足に心を躍らせて登校。校庭の前に並んだ6台の大型バスに全員が乗り込み、管理職の先生方などに見送られ、「いざ! 動物園に向けて出発!!」。

バスは順調に進み、予定通り動物園に到着したとき、冒頭に書いたように子供たちが騒ぎ出したのです。私は駆け出しの新米教師でしたので、その時は、どうなっているのかがまったく理解できず、ただ「どうかしたのかな?」というくらいにしか感じていませんでした。その後すぐに、バスの運転手さんから「今日は、動物園は休みですけど、これからどうするのですか?」と聞かれ、そこで初めて事の重大さに気が付きました。

6台のバスは、空いている大きな駐車場に停車。「担任はすぐに集合!」という指示が学年主任から届きました。「動物園が休みなので、これからどうしたらよいか」という緊急の相談でした。「近くの広場で遊ばせて、お弁当を食べさせるしかない」と話し合いがまとまりかけたとき、動物園の近くにある遊園地の責任者が車でやって来て、「ぜひ当園を利用してください。入園料や乗り物などの利用代金はサービスさせていただきます」と救いの手を差し伸べてくれたのです。その言葉に甘えさせていただくことを全員一致で決定し、遠足の目的地は急きょ、遊園地に変更となりました。

バスに戻り、目的地変更を伝えると「わぁー! 良かった」「楽しそうだぞ!」と飛び跳ねて喜ぶ子もいれば、「えー! 動物園じゃないの?」と、寂しそうな顔をする子もいました。

遊園地では、260 名を超える急な入場者に大慌て。いろいろな乗り物のカバーを外したり、安全に乗り物が動くように電源の確認をしたりして対応してくださいました。子供たちには諸注意が与えられ、グループ単位での行動が始まると、「先生! 気持ちいいよ」「わー! 目が回る」「先生! 一緒に乗ろうよ」など子供たちは最高に楽しそうな表情を見せ、私も一緒になって遠足を満喫することができました。

子供たちと出会って、まだ1カ月も経過していなかった私は、少しでも早く子供たちの名前や性格・特徴などを覚えたいと頑張っていたところです。元気で活動的な子供はすぐに覚えられましたが、おとなしい子はなかなか覚えられないでいました。そこで遊園地では、おとなしい子供たちに意図的に声を掛け、できるだけ会話を多く交わすように努めました。そんなおとなしい子の一人だったA ちゃんに、「これに一緒に乗ろうか?」と声を掛けると、ニコッとしてうなずいてくれました。一緒に乗り物に乗って遊び、遠足の最後には「今日は、とても楽しかった」と言ってもらえたことを、今でも懐かしく思い出します。

目的地は変わったものの、遠足はすべての日程を終了し、全員無事に学校に戻りました。子供たちは、リュックサックに楽しい思い出をたくさん詰め込んで家路につきました。遠足後の学級経営は順調で、子供たちが心を開いて接してくれたことから、充実した1年を過ごすことができました。春の遠足は、学級担任と子供たちを結び付ける大きな役割を果たしているのだなぁと改めて感じました。

もちろん、遠足後、学校に戻ってすぐに開催された教員による反省会では、「なぜ、動物園が休園なのに気付かなかったのか」について再度話し合いました。バスの運転手やバスガイドは、休園日であることを知っていたそうなのですが、「学校はすごい力を持っているよね。動物園を開けてしまうのだから…」などと思っていたようです。関係者がそれぞれの立場から確認し合っていれば、何より教員がしっかりと下見を行い、休園日を確認していれば、こんな失態が発生することはありませんでした。「たぶん大丈夫でしょう」「誰かが確認してくれているだろう」という安易な考えが一番いけないのだということを、教員一人一人が考えさせられた遠足でした。

遠足の翌日には、学級の子供たちとも反省会を実施。「遠足はとても楽しかった」という子が約9割ということで、動物園の休園は、ほとんどの子供たちにとって「ラッキーな出来事」だったようで、ホッとしまし
た。学校への批判はたくさんありましたが、子供たちにとっては、この遊園地への遠足も、新しい友達と仲良くなるきっかけ、そして楽しい学級づくりのきっかけになったのだと思います。

子供たちは、「先生! 遊園地はとても楽しかったよ」「また、みんなで行ってみたいね!」「先生と一緒に乗れて良かった」と口々に言ってくれていました。動物園が休園のため、偶然変更になった5年生の春の
遠足は、それでも子供たちにとって良い思い出になってくれたと思います。

今回、紹介した出来事は、たまたま子供たちにとって良い思い出になったようでしたが、本来なら許されるべき行事運営ではありません。学校行事は、子供たちの良い思い出になるように、安全・安心に配慮した計画的な実施が求められます。この遠足での出来事は、素直で仲良く、輝く目をした5年生の子供たちの姿とともに、退職した今でも忘れることができません。

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