『教セミ』連載 | ICTが創る新しい学び

ICTの先進校を舞台に,産学官共同研究「次世代型学びプロジェクト」がスタート

top

東京都日野市立平山小学校

電子黒板やタブレット端末は導入したものの,それを十分に使いこなせずに持て余し気味…。教育の情報化が加速する一方で,そうした状況にある学校も少なくありません。効果的に活用し,教育的成果を得るには,何が必要なのでしょうか。ICT先進校として知られ,今年度から産学官共同研究「次世代型学びプロジェクト」が進められている東京都日野市立平山小学校の取り組みをレポートします。(文・編集部)

 

7年間で実に20回も公開研究会等を開催

都心から西に約35キロメートル。東京都のほぼ中央に位置する日野市は,新選組の副長・土方歳三が生まれ育った地としても知られています。人口約18万人のこの市には,17の小学校と8の中学校があり,市の教育施策の一つとしてICTの活用に重点的に取り組んでいます。市教委のホームページ上では,ICT活用の実践事例集が公開されていますが,本稿で紹介
する平山小学校をはじめ,多くの学校で電子黒板やタブレット端末を使った授業が積極的に行われていることが分かります。

教育の情報化に向け,同市が本格的に舵を切ったのは2006年です。この年,教育委員会事務局内に「ICT活用教育推進室」が設置され,室長を中心とした少人数チームで,ICT活用の研究実践がスタートしました。この当時,機器の主役はパソコン。コンピュータ室での調べ学習などが多くの学校で行われ,徐々に実践のノウハウも蓄積されていきました。

そうした中で,平山小学校が市のパイロット校として歩み始めたのは,2009年度に「パナソニック教育財団第35回特別研究指定校」となったことが,一つの起点になっています。この指定と同時に,同校の校長に着任したのが,先述した市の「ICT 活用教育推進室」で開設時から室長を務めてきた五十嵐俊子校長です。「室長として,市の教育情報化を進め,パナソニック教育財団への応募書類などを作成していましたが,まさか自分がその学校の校長になるとは思いませんでした」と,五十嵐校長は当時を振り返ります。

五十嵐校長の着任後,2010年2月には総務省の「ICT絆プロジェクト」の指定校にもなり,2011年からは「パナソニック教育財団『未来の教室』プロジェクト」の共同研究校にも指定されました。さらに,2013年度からは,文部科学省の研究開発学校にも指定。2014年には,教育の情報化に貢献したとして,「情報化促進貢献個人等表彰」で文部科学大臣賞を受賞しました。

このように,多くの研究指定を受けてきた結果,2009年度からの7年間で,同校が開催した研究発表会および公開研究会の回数は,計20回にも上ります。五十嵐校長はその間,全国でも指折りのICT先進校へと成長した同校を牽引し続けてきました。

 

公開研究会での授業内容

2年生・国語「ことばをつくろう」

ph01児童が1人6~8字ずつ,タブレット端末に漢字を入力。3~4人で端末を持ち寄り,アプリを使って交換しながら熟語を作るゲームを行った後,出来上がった熟語の類型(「修飾・被修飾」「対義」「類似」など)について考えました。

3年生・理科「つく? つかない?」

ph02豆電球にあかりがつく回路のつなぎ方について法則性を見出す授業で,発表や情報共有のツールとしてタブレット端末を使用しました。

6年生・生きぬく科「まちづくりプロジェクト」

ph03前の授業で防災の専門家から聞いた話をグループ単位でまとめた後,話し合い活動を実施。その際,タブレット端末の録音・再生機能を活用し,良いと思う発言に「いいね」を押すなどして,考えを深め合いました。

 

 全国的にも注目を集める産学官共同
プロジェクトが同校を舞台にスタート

2010年2月に始まった「ICT絆プロジェク ト」では,各学年に40台ずつタブレット端末が配備され,日々の実践で活用されてきました。しかし,このプロジェクトが2015年3月に終了し,機器のメ ンテナンスが受けられなくなることから,それ以降の実践をどうやりくりするかが,大きな課題となっていました。そうした五十嵐校長の悩みを聞きつけ,企業 サイドから申し出る形でスタートしたのが,産学官共同研究「次世代型学びプロジェクト『ひの@平山小』」です。同校と信州大学,東芝,シャープビジネスソ リューション,日本マイクロソフト等による産学官共同研究プロジェクトで,①ICT を活用した「自立・協働・創造」,②学校と家庭の学びの接続,③学びの記録を活用した「学び・指導・評価」の3つの柱を中心に,実践研究が進められていま す。ICT領域の先端を走る研究機関と企業が力を結集して同校を支え,未来の学校と学びについて追究する注目のプロジェクトです。

2015 年6月には第1回,10月には第2回の公開研究会が行われ,いずれも多くの来場者が集まるなど,注目度の高さを伺わせました。公開研究会で披露された授業 の数々を見ても,同校のICT 活用が,長年の蓄積をベースに構築され,高い成果を挙げていることが分かります。

 

ICTの活用が学力の格差を埋める

同校におけるICT機器の活用は,大きく3つの類型に分けることができます。

1つ目は,個別学習をベースとした基礎基本の習得です。例えば,児童が使うタブレット端末には『インタラクティブスタディ』という個別学習支援システムが入っていますが,このシステムは児童が問題を間違えると,コンピュータが誤答の内容を分析して,適切な指導をしてくれます。例えば,二桁の引き算で“くり下がり”を忘れると,システムがその間違いを指摘した上で,類似する復習問題が出題されます。そうして,まるで教師がそこにいるかのように,児童が個別学習に取り組むことができるのです。

「授業中,児童の学習状況は,教師が手元の端末でリアルタイムに把握できるので,手が止まっている子がいたら,すぐそばに行って指導します。また,クラス全体の傾向も出るので,弱さのある領域が分かれば,そこの部分をもう一度授業で説明するなどして,データを授業づくりに生かすこともできます。」(五十嵐校長)

2つ目は,つまずきの大きい子や不登校気味の子など,特別な支援を要する子への活用です。ICTの教育利用については,「学力格差をさらに広げるのではないか」と指摘する人もいますが,この点について五十嵐校長は,自身の体験を交えて次のように語ります。

「私はむしろ,格差を埋めるツールになると思っています。今年5月,マイクロソフト社の招待で海外研修に参加しましたが,多国籍メンバーでの討議で私だけが英語を話せず,とても苦労しました。そうした“つまずき”がある中で,助けてくれたのがICT機器です。タブレット端末に対話の内容が可視化されたことで,何とか話についていくことができました。」

五十嵐校長は帰国後,すぐに各学級を回り,つまずいている子がいないか,いる場合はきちんとケアされているか,各教室を見て回ったそうです。同校には,つまずきの大きい子が別教室に移動して学ぶ「リソースルーム」がありますが,ここでもタブレット端末が活用されています。

3 つ目は,協働型・問題解決型の学びにおける活用です。昨年あたりから,「アクティブ・ラーニング」という言葉が頻繁に聞かれるようになりましたが,同校ではそれ以前から,ICT機器を使った話し合いや情報の共有,プレゼンテーションなどを授業に取り入れてきました。「以前開催した公開研究会で,6年生と卒業生にコンピュータを利用した学習の良さについてインタビューする企画が行われましたが,どの子も積極的にマイクを持って発言することに,参加者の方々が驚いていました。これも,ICTを活用した協働的学習の成果の一つだと思います」と,五十嵐校長は言います。

ph05同校に置かれた特別支援学級「わかくさ学級」での電子黒板を用いた授業の様子。

ph06公開研究会での大人から子供へのインタビュー。マイクを手に積極的に発言する同校の児童。

若手とベテランが互いに支え合いながら
ICTの活用を推進

現在,同校にはすべての普通教室に電子黒板が配置され,タブレット端末も新旧含め500台以上が配備されています。校内には無線LAN設備があり,どの教室からでもインターネットに接続することができます。また,タブレット端末には多様な学習アプリが入り,その履歴はサーバに蓄積されるようになっています。
しかし,こうした設備・機器があるからといって,必ずしもICTの教育利用がうまくいくとは限りません。成果を生み出すには,機器を活用して授業や活動を組み立てられる「ノウハウ」,そして「人材」が不可欠です。
同校の場合,「ノウハウ」については,長年の研究実践の蓄積により,ICTを使うべき場面が精査され,教員間の共有も図られてきました。それは,過去に残してきた膨大な研究発表資料からも見て取ることができます。

一方で,「人材」についてはどうでしょうか。五十嵐校長は,同校の教員について次のように語ります。

「本校は約半数が20代の若い教員で,本校が初任校という人も少なくありません。うちで5~6年のキャリアを積むと,ICTの活用力も含めてかなりの力がつきますが,ちょうどその頃,他校へ異動してしまうのは確かに痛いものがあります。」
このジレンマは,多くのICT先進校が抱えるものですが,それでも同校の公開研究会を見ると,どの教員も高いパフォーマンスを発揮している様子が伺えます。その最大の要因は,職員室に“風通しの良さ”があることです。
「機器の使い方に関しては若い教員の方が詳しいかもしれませんが,力のあるベテラン教員には,データを読み取り,指導に生かす力量があります。本校では,若手とベテランが,お互いの弱いところを補い合い,強いところを共有し合う形で,支え合えていると思います。」

五十嵐校長によると,同校の忘年会等は,各々の出し物などで大いに盛り上がるそうで,そうした良好な関係性が,ICTの効果的な活用においても,プラスに作用している様子が伺えます。

ph07ベテラン教員と若手教員が支え合いながら,どの学級でも積極的にICT の活用が進められています。

未来を生き抜いていくには
自分の力を“超えていく”ことが必要

ICTの活用を通じ,「学び方」の変革を追究し続けてきた同校ですが,一方で「学ぶ内容」についても,その見直しと再構成を図ってきました。そのきっかけとなったのが,2011年3月に起きた東日本大震災です。「震災で多くの人々が亡くなるのを見て,学校教育とは何なのか,果たしてこのままでよいのかと自問自答しました」と,五十嵐校長は当時を振り返ります。

そうして立てたのが,「未来を生き抜く力を育む」という目標です。2013年度からは,文部科学省の研究開発学校として,新教科「生きぬく科」を設け,大幅なカリキュラムの改変に着手しました。現在は,さまざまな自然体験や防災体験などが行われ,これとICT活用を融合する形で,教育実践が展開されています。

「今の小学生は,22世紀まで生きるかもしれません。これから先,今ある仕事が,なくなっていることもあるでしょう。そうした社会を子供たちが幸せに生きていくためには,持っている力を“最大限に伸ばす”だけでなく,自分の力を“超えていく”くらいのことが,求められると考えています。」(五十嵐校長)

「生きる力」よりも一歩進んだ「生き抜く力」の育成を核として,ICTの活用を進める同校。その実践が今後どのように進化を遂げていくのか,注目していきたいところです。

教育データ対策 これ一冊でいっき解決! 3ステップ過去問分析の進め方 教員養成セミナーのご紹介 教セミLine@ 教員採用試験対策サイトへ

最新号のご案内