ICTが創る新しい学び

校務の一斉デジタル化で教員の業務を効率化

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市原市教育委員会

授業やホームルーム、給食、部活動、学校行事――。教員は日々、多くの仕事をこなしています。出席簿や通知表の作成をはじめとする「校務」も、大切な仕事の一つ。これをいかに効率化し、子供との時間を作り出すかはとても大切です。校務のICT化を通じて、教員の業務効率化を図る千葉県市原市教育委員会の取り組みを紹介します。
(文・長尾 康子)

 

出席管理に成績処理…
教員の仕事は盛りだくさん

教員の仕事は、授業や部活動の指導だけではありません。児童生徒の出欠状況を確認し、学期末や学年末には成績処理をするなど、日々多くの“書類づくり”もこなしています。養護教諭であれば、健康診断の結果や保健室の来室状況、予防注射の集計などをして児童生徒の健康管理をします。これら、外側からは見えない教員の仕事は、一般的に「校務」と呼ばれます。

文部科学省が2014年度に実施した「教職員の業務実態調査」によると、業務のうち「児童生徒の指導に関する業務」40項目に対し、「学校の運営に関する業務」は11項目に上ります。その中でも「日々の成績処理」「成績一覧表・通知表の作成、指導要録の作成」「週案・指導案の作成」などの従事率は90%を超えています。授業や部活動など直接子供たちと関わる時間の他に、これら校務も地道にこなしているのが、教員のワークスタイルなのです。

情報化社会の進展とともに、そうした校務においてもICTを活用して効率化を図ろうとする動きが出てきています。効率化によって生まれた時間を、教材研究や児童生徒と共に過ごす時間に充てようというのがその狙いです。千葉県の中央部、東京湾に面した市原市は2014年3月より校務のICT化を推進しています。推進から2年目を迎えた今、どのようなメリットや課題が見えてきたのか、教育委員会の担当者に話を伺いました。

 

市内小中65校で一斉に校務をデジタル化

市原市は他の自治体に先駆け、公立小中学校のコンピュータ室整備などに着手してきた実績があります。また、最近では同市立国府小学校において児童1人1台のタブレット端末を導入し、ICTを活用した授業が展開されています。特別支援学級の授業でテレビ会議システムを活用し、他校と交流学習をするなど、学年や学級を問わず幅広くICTの活用が進められています。

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市原市立国府小学校では、タブレット端末を活用した授業が日常的に行われています。

 

市原市が校務のICT化に着手したのは、2013年度にさかのぼります。コンピュータ室のパソコンを更新するタイミングで、全教職員に“1人1台”のパソコンが整備されたことを機に、それまで各校が独自のフォーマットで行っていた出欠管理や成績処理をデジタル化することにしたのです。導入したのは㈱内田洋行の校務支援システム「デジタル校務」で、市内全65の小中学校に一斉導入することになりました。一般的に、校務支援システムの導入等は、モデル校での半年〜1年の実証を経て行われますが、同市では管理職等から「1日でも早く教員の多忙化を解消したい」との声があったことから、全校一斉導入となりました。

とはいえ、教員の中には、パソコンの扱いに慣れていない人も多く、加えてこれまでのやり方が変わることに対して、抵抗感を覚える人も少なくありません。児童生徒の個人情報を扱うことから運用のルールを統一し、セキュリティも確保していく必要があります。こうした課題を乗り越え、快適に使ってもらうためにはどうすればよいのかを考えるため、各校の教務主任や養護教諭などから成る「校務支援システム構築プロジェクト会議」を立ち上げ、運用について話し合うことにしました。このプロジェクトは、現在に至るまで計15回ほど開催され、「デジタル校務」のスムーズな利活用に向けた検討が重ねられています。

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市原市校務支援システム概要図

 

現場の感覚でズレがないよう
研修やサポートを万全に

「かつて自治体向け業務支援のシステムは、それぞれのやり方に合わせる『オーダーメイド型』で構築するのが主流でした。しかし、現在は既成のシステムを導入し、校務の方を合わせていく時代です。」

導入当時、市原市役所総務部情報システム係を担当し、校務のデジタル化を中心となって進めてきた甲田大輔氏(現在は市民生活部に所属)はそう話します。教員が慣れ親しんだフォーマットと同じようなシステムを構築することも不可能ではありませんが、運用開始までに時間がかかる上に、専任のシステムエンジニアやサポートのためのスタッフを確保しづらいなどの問題があると甲田氏は言います。

一方、最近の校務支援システムは多彩な機能やオプションが付き、どの自治体、どの学校でも活用できる汎用性の高いものが増えてきています。限られた予算と時間の中で校務のICT化を進めるには、後者の方が合理的な選択だという判断のもと、同市では「デジタル校務」を導入することにしました。

同市教育委員会の指導主事・生田勲先生も、そうした時代の流れに適応すべきと考えるようになったと言います。

「当初は、学校のスタイルに合わせたシステムを構築してほしいと思っていました。私自身も、校務効率化のためにパソコンで独自のデータベースを作るなど、工夫してきた蓄積があったからです。でも、考えてみれば異動するときにそのフォーマットを持ち出すわけにはいきませんし、異動先であらためて学校独自の書式を一から覚える必要があります。校務の効率化は、学校単位で考えるのではなく、より広域的に整備していく必要があると気付いたのです。」

とはいえ、これまで出力紙への書き込みをしていた教員にとって、パソコンを活用した新システムへの移行は、大きな心理的負担になりかねません。そのため、同市教育委員会ではシステムを中心となって利用する教務主任と養護教諭を対象に、運用開始3カ月前から研修会を行い、さらには教育委員会の担当者が各校を訪問しての研修会なども行いました。そして、2014年3月には運用をスタートさせました。

「導入したばかりの頃は、入力方法や設定方法などについての質問電話が、ひっきりなしにかかってきました」と、生田先生は振り返ります。初年度の問い合わせは、ヘルプデスクと教育センターを合わせて約3,000件にも上りましたが、プロジェクト会議のメンバーでもあった生田先生は、こうした質問に一つ一つ丁寧に対応し、次第に問い合わせの数も減っていったと言います。

「年度当初は学籍管理、夏休み明けは成績処理、秋頃には調査書作成、年度末には指導要録作成と、教員には季節ごとに時間を取られる校務があり、今もそうした節目ごとに問い合わせが入ってきます。そのたびごとに、丁寧にサポートするよう心掛けています。」

初年度は、1校につき年20回、ICT支援員の派遣も行い、「デジタル校務」のスムーズな運用に向けた研修・サポートも行いました。そうした取り組みの成果もあって、最近では多くの教員が入力にも慣れ、スムーズに使えるようになってきたことを実感しているそうです。

 

ルーティンの仕事が効率化・省力化され
安心して教育活動に向き合える

具体的に、「デジタル校務」を活用した校務処理とは、どのようなものなのでしょうか。

教員が毎日行う校務の一つに、児童生徒の「出席管理」があります。これは通知表や指導要録を作成する上でもベースになる大切な記録で、月末には管理職の承認を受けなければなりません。

以前は、フォーマットをプリントし、そこに手書きで「○」「△」「×」などを書き込み、手計算で出欠の数を計算していましたが、「デジタル校務」ではワンクリックで全児童生徒を「出席」にし、そこから「欠席」「遅刻」「早退」「忌引」などの児童生徒だけ、入力すればよい仕組みになっています。これにより、「月末の出席簿作成にかかる時間が、少なくとも1時間は短縮されました。年間では、10時間以上短縮されたことになります。手書きだと起こりがちな集計ミスも減り、訂正や再印刷も簡単にできることから、出席簿機能については多くの教員が、早い段階で便利さを実感していました」と生田先生は話します。

教職員1人1台の校務PC導入初期と比べても、校務支援システム導入後の方が利用率(毎日利用)は47%から77%へと増加しました。さらには、通知表や指導要録の作成ための「成績管理」も、省力化が実現しています。指導要録は、法律により作成と保存が義務付けられた重要文書ですが、「デジタル校務」を使うことで、手作業で起きがちな転記ミスを防ぐことができます。これら教員のルーティンワークが省力化されたことで、校務にかける時間短縮が図られただけでなく、気持ちにゆとりができたのではないかと生田先生は分析しています。

また、養護教諭による保健管理も、校務の重要領域の一つです。健康診断結果や保健室への来室記録、インフルエンザ集計表は児童生徒の成長と健康を見守り、保健指導にも役立つ記録です。これらのデータも、「デジタル校務」の出席簿などとひも付けながら入力することができ、効率的に管理することができます。

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校務のICT化で業務の効率化が進めば、教育活動に充てられる時間も増えます。

 

センターでの一元管理が力を発揮
約9割が「楽になった」と回答

校務のデジタル化の最大のメリットは、情報を教育委員会のサーバに一元管理している点です。例えば市内の学校間で転校した児童生徒は、学籍情報や健康診断情報などが、ネットワーク上で転校先の学校に引き継がれます。また、小学校から中学校へ進学した際も、同じように情報が引き継がれます。こうした円滑な情報の引き継ぎは、小中連携や学校間連携を進めていく上でも有効です。

また、教員が市内の学校に異動した場合、付与されたIDは変わらないので、異動した先ですぐにログインし、これまでと同様にシステムを使うことができます。もちろん、出欠簿や成績の管理方法は同じなので、新しい学校のシステムに慣れるための負担はありません。

昨年度実施したアンケートでは、校務支援システムのICT化で「出席簿作成が楽になった」と回答した教員は、全体の約9割に上りました。「出席簿を記入する教員は、市内に800人以上。全員が出席簿の記入で月1時間節約できたとすれば、校務支援システムの1カ月の運用費用を十分に回収できるくらいの費用対効果があると考えています。」(生田先生)

運用開始から2年目を迎え、着実にその便利さが実感され始めている校務支援システム。その利便性・メリットをしっかりと認識し、前向きに利用しようとする姿勢こそが、これからの教員には求められているのかもしれません。

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