『教セミ』連載 | 映画・ドラマに学ぶ教育の本質

「あん」

2015年/日本・フランス・ドイツ/113分
監督:河瀨 直美
原作:ドリアン助川
キャスト:樹木 希林/永瀬 正敏/内田 伽羅/市原 悦子/水野 美紀/浅田 美代子 他

 

生きること、人権について考える上で観てほしい作品

吉田 和夫(玉川大学教師教育リサーチセンター客員教授/教育デザイン研究所代表/元東京都公立中学校長)

今回は、少し社会的な問題を取り扱った映画をご紹介します。生きることや人権について描いた作品です。とはいえ、さほど肩ひじ張らずにゆったりと味わえます。そして、観賞後は穏やかな気持ちになります。

最初に登場するのは、罪を犯し、刑務所暮らしを経験した千太郎(永瀬正敏)。知人の援助でどら焼き屋の雇われ店長をしていますが、店は女子中学生が来る程度で、まるで繁盛していません。夢も希望も志もなく、生きる気力を失いかけながら過ごす千太郎のもとに、ある日不思議な老女が「自分を雇ってほしい」と現れます。何度も断る千太郎に、老女は働くことをしきりに懇願し、「食べてみて」と手づくりの粒あんを渡します。その美味しさに千太郎は驚き、老女を雇うことにします。老女は徳江(樹木希林)といい、彼女の存在が千太郎の人生を変えていきます。

粒あんの美味しさは評判を呼び、店は繁盛し始めます。あんづくりに対する徳江の姿勢に惹かれる千太郎でしたが、ある頃から彼女がかつてハンセン病を患っていたという噂が流れるようになり、客足が遠のいてしまいます。そして、ついには徳江を辞めさせざるを得なくなります。

何も言わずに店を去った徳江。そのことが気にかかる千太郎は、どら焼き屋の常連で徳江と心を通わせていた女子中学生・ワカナ(内田伽羅)と共に、彼女の足跡をたどり始めます。

「このうえなく優しい魂の物語」とのコピーが付された本作ですが、ドリアン助川氏による原作『あん』(ポプラ社)は、2013年度読書感想画中央コンクール指定図書(中学校・高等学校の部)にもなっています。

ハンセン病への偏見の中に人生を閉じ込められていた徳江と、生きる気力を失いかけていた千太郎。多くの人たちとの関わりの中で、果たして2人は新しい人生に向かって歩き始めることができるのでしょうか。

監督の河瀨直美氏は、「萌の朱雀(もえのすざく)」(1997年)で、第50回カンヌ国際映画祭新人監督賞(カメラ・ドール)を史上最年少で受賞した社会派の映画監督です。その10年後には、「殯の森(もがりのもり)」(2007年)で第60回カンヌ国際映画祭グランプリも受賞しています。主演は2014年に旭日小綬章を受章した名女優・樹木希林。女子中学生・ワカナ役は、樹木の孫娘である内田伽羅が演じています。

人権意識とは何よりも、人権に関する「感覚」や「感性」にほかならないと私は思います。学級や学校におけるいじめや弱い者への搾取、いわゆる「スクール・カースト」と言われるものの存在は、社会意識の反映に他なりません。ヘイト・スピーチなど人権を顧みない言動がはびこり、弱者や少数者を犠牲にして強者のための社会に向かおうとしているように感じる今の時代だからこそ、ぜひ観ていただきたい映画です。

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