『教セミ』連載 | Professional の仕事

第5回 学校医 弓倉 整 先生

教育活動に関わるのは教師だけと思っていませんか?学校は実にさまざまな人たちの支えによって成り立っているのです。「チーム学校」の一員として子供たちの健やかな学びを支える人々に、話を伺いました。

文・黒澤 真紀

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弓倉 整(ゆみくら・せい)先生
1954年生。1979年日本大学医部卒業後、日本大学附属板橋病院に勤務。1983年日本大学大学院卒業、医学博士。1988 年米国オハイオ州ライト州立大学留学。同年、宇宙開発事業団副主任開発部員、宇宙健康管理医としてNASAの日本の有人宇宙計画に携わる。1996年弓倉医院院長就任。1999年より2009年まで板橋区医師会理事・監事。現在、日本学校保健会の専務理事。板橋区内の公立中学校、私立中学校の学校医を務める。

 

――弓倉先生が学校医になられるまでの経緯を教えてください。

大学の医学部を卒業後、日本大学医学部附属板橋病院のCCU(※)に勤務していました。その後、1988年から5年間、NASAで毛利衛さんや向井千秋さん、土井隆雄さんなど日本人宇宙飛行士の医学検査に携わりました。毛利さんの初フライトの時には宇宙飛行士専属医師として、地上の管制室から健康管理も行いました。その後、病院を開業していた父の体調が悪くなったこともあり、跡を継ぐために帰国しました。以来、この「弓倉医院」で院長をしています。
(※)CCU…狭心症や心筋梗塞などの循環器系、特に心臓血管系の重症患者を対象とした集中治療室

学校との関わりは、1996 年に板橋区医師会に入り、学校の心臓検診を任されることなったのが最初です。心臓検診の他に、循環器の分野の班長として学校で行われる検診のマニュアルを整備したり、学校医に向けた説明会を行ったり、心電図のデータ管理を系統化したりといった仕事にも関わりました。その後、板橋区内の公立学校の学校医にもなり、現在は公立中学校1校の他に、私立中学校1校も担当しています。

――学校医になるために必要な資格や条件はあるのでしょうか。

基本的に必要な資格は医師免許です。教育委員会がその地区の医師会に「学校医を推薦してください」と依頼し、それを受けた医師会が各医師に打診した後、教育委員会に推薦します。

私もそうですが、学校医の仕事は、自分が経営するクリニックの仕事と掛け持ちで行います。そのため、うまくスケジュールを調整しながら、急な事態にも対応していく力が求められます。さらには、学校の先生や子供たちとうまく意思疎通を取れるコミュニケーション力、豊かな人間性も求められます。そのため、高い医療技術を持っているだけでは、学校医には推薦されません。

――学校医の具体的な仕事内容について教えてください。

「学校三師」というのをご存じでしょうか。学校医、学校歯科医、学校薬剤師のことです。学校保健安全法で「学校三師」は各学校に置かれるものとされていますが、学校医は内科、眼科、耳鼻科を担当し、検診などに当たります。私は内科の医師なので内科の業務に当たり、眼科、耳鼻科は別の専門医が担当しています。

学校医の具体的な仕事内容としては、毎年4〜6月頃に行われる健康診断、修学旅行やスキー研修など宿泊行事の前の検診、インフルエンザなどが流行った場合の緊急対応などがあります。また、感染症が流行した際、校長が学級閉鎖をするかどうかを判断する際には相談に乗ります。その他にも、学校環境衛生の維持・改善に関する助言をしたり、児童生徒の健康に関わる相談に乗ったりもします。また、学校医によっては、健康に関わる講演会を頼まれることもあり、私も昨年度、宇宙と健康をテーマに、中学校で講話をしました。

――学校医の年間のスケジュールはどのような感じなのでしょうか?

学校医としての仕事で最も忙しいのは、4月から6月にかけて行われる健康診断の時期です。6月30日までに実施すると法律で決められていますので、学校と連絡を取りながら日程を調整します。健康診断の日に欠席した子供のために、改めて学校に赴くこともあります。

――学校医の仕事で、印象に残っている出来事はありますか?

先ほど申しましたように、スキー研修や修学旅行などの宿泊行事の前には検診のために学校へ行きます。スキー研修に行く前には、繰り返し「風邪をひかないようにね」と言うのですが、それでも以前、宿泊先で20人もの生徒たちが集団でインフルエンザにかかってしまったことがありました。幸い、看護師が同行していたので卒なく対応ができましたが、私も現地と連絡を取り合いながら、生徒たちが無事に帰れるように助言などをしました。
P126_1学校医は学校というチームの一員であり、「健康」こそがすべての教育活動の基盤になると語る弓倉先生。

――学校医の仕事で、何か心掛けていることはありますか?

子供たちの健康を守るために、「チームの一員」としての役割を果たしたいと常に考えています。そのためには、学校の先生、養護教諭などと緊密に連携を取らなければなりません。児童生徒にとって安全・安心な生活を送るということが、すべての活動の基盤となります。そして、「安全・安心な生活」の土台を成すのが「健康」です。教員、養護教諭、そして私たち学校医が、児童生徒の健康の重要性をしっかりと認識し、円滑に意思疎通をしながら活動していくことが大切です。

――学校医を取り巻く課題などがあれば、お聞かせください。

これは、学校医制度始まって以来の課題なのですが、報酬のことが挙げられると思います。報酬が安いため、最近は学校医を受けてくれる人が不足し、高齢化も進んでいます。特に眼科や耳鼻科の不足は深刻で、いくつもの学校を掛け持ちしている医師も少なくありません。

――学校医の仕事の醍醐味は、どんなところにあると感じていますか?

児童生徒の健康をサポートしていく中で、普段の診療とは違って刺激を受けることが多々あります。彼らが元気でいてくれること、成長を実感することが何よりの喜びですね。学校には実にいろいろな児童生徒がいて、健康面での不安を抱えている子も少なくありません。重度の食物アレルギーがある子、心臓の手術を受けたことがある子、エピペンを持っている子などが無事に卒業してくれると、一抹の寂しさもありますが、ほっと安心して嬉しくなります。

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