教職感動エピソード

Vol.8 クラスの立て直しに奮闘した教職6年目

高麗孝道(元埼玉県公立小学校長)

感動エピソード

イラスト・佐藤百合子

昨年ある教え子から、同窓会をしたいという連絡があり、大変驚きました。というのも、私の教員人生の中で最も対応が難しかったクラスで、まさか同窓会をするなどとは思いもよらなかったからです。

今から30 数年前、私は教職人生2校目の学校に異動となり、いきなり6年生の担任となりました。体育館での始業式、クラスの子供たちと対面して挨拶をしましたが、誰一人頭を下げる子がいません。それどころか私をにらみつけてくる子さえいます。教室に入った後も状況は変わらず、これは大変なクラスを任されたなと思いました。後で同学年の先生に話を聞いたところ、5年生のときの担任との関係が悪く、反抗的で対応が難しい子もいるとのことでした。

実際に授業を始めても学習規律はほとんどできておらず、注意ばかりする日々が続きました。さすがにこのままではいけないと思い、子供たちになぜこんな状態なのか、聞いてみました。すると、子供たちからは、前の年に起こったもめごとや前担任への不満が次々と出てきました。そのすさまじさには呆れるばかりでしたが、時間が経つにつれ、このクラスを何とかしなくてはという闘志がふつふつと湧き起こってきました。

私は子供たちに、今のままの状態で卒業したいかと問い掛けました。私の顔が今までと違うと感じたのでしょう。どの子も黙って話を聞いていました。子供たちの答えは、大半が今のままで卒業するのは嫌だという意見でした。その答えを待っていた私は、子供たちに宣言しました。

「今のクラスもみんなの心も病気の状態だ。卒業するまでに先生が、必ずこの病気を治して明るく健康なクラスにする。だから、健康になりたい人は協力してくれ。」

驚いたことに、次の日から少しずつクラスの雰囲気が変わっていきました。すぐに心を開かない子はいるものの、私に話し掛けてくる子が見られるようになったのです。私も休み時間などには子供たちと積極的に会話し、たとえ疲れていてもできるだけ子供たちと遊ぶようにしました。その甲斐もあり、多くの子供たちとコミュニケーションがとれるようになりました。また、学習規律については機会あるごとに注意を繰り返し、なぜ決まりを守る必要があるのか具体例を挙げて
説明するなど、徹底的に指導しました。もちろん、面白く分かりやすい授業づくりも心掛けました。

最初は文句を言っていた子供たちも、良くなった学習態度を私や他のクラスの先生に褒められるようになるにつれ、表面的には落ち着いたクラスになっていきました。しかし、子供たち同士の人間関係については、どこか不自然さが残っていました。

そしてある日、Y という女子児童が私に相談に来たことによってその原因が分かりました。女子の中にボスのような存在がいたのです。そういえば私に話し掛けてくれるのは決まって男子でしたし、女子だけで仲良く遊ぶ様子などは、見たことがありませんでした。

Y の話では、S という女子児童がクラスを牛耳っていて、先生の言うことを聞くなと指示したり、みんなで決めるべきことを自分勝手に決めてしまったりするとのことでした。S に対しては、男子ですら何も言えないらしいのです。

私は、小学生集団にもボスがいること、それが女子であることを知り、ショックでした。Y は自分が話をしたことは内緒にしてほしいと断った後、「先生だったら何とかしてくれると思ったので話した」と言います。よくぞ話してくれたと思う半面、内心どうしたものかと思ったのも事実です。教職6年目、このような事態に直面したことはありませんでした。心の中は不安で一杯でしたが、やるしかありません。Y には先生に任せておけと言い切りました。この日から私の新た
な戦いが始まったのです。

私は2つの戦略を立てました。1つ目は、信頼してくれる児童を増やすことです。私は今まで以上に子供たちとコミュニケーションをとるように努めました。2つ目は徐々にS と周囲の児童との関係性を変えていくこと。まず子供たち一人一人と個人面談を行い、今の状況をどう思うかを聞きながら情報を集めました。クラス全員が対象ですのでかなり時間がかかりましたが、状況が状況なだけに、焦らずじっくりやろうと考えていました。面談は男子から始め、次にS とはさほど仲が良くないと思われる女子、S と最も仲が良い女子という順に進めていきました。

私は、S と仲の良い女子たちにクラスの皆がS に対して思っていること、今の状況は決して好ましい状況ではないことなどを諭すように話しました。そして、良いクラスをつくりたいのでぜひ協力してほしいと頼みました。

ついにS の番になりました。S も私も緊張していましたが、私は思いきってS に、「みんなが君を怖がっているよ」と告げました。そして、「君が変わってくれると良いクラスになるよ」と言い、S の答えを待ちました。S ははっとした表情をしましたが、コクリとうなずいただけで何も言いませんでした。

その面談後まもなく1学期は終わってしまいましたが、子供たちに私の気持ちが通じたのでしょうか、2学期になると女子たちの関係性が一変しました。今まで遊ばなかった子供たちも遊ぶようになり、運動会に向けてクラス団結して頑張ろうという声もあちこちであがるようになりました。運動会の結果は4クラス中3位でしたが、結果発表では全員が拍手と歓声で自分たちの健闘を称え合いました。そして、卒業までの半年間はとても良い関係が続き、全員が無事に卒業して
いきました。周囲に怖がられていたS も、このクラスで良かったという言葉を残して卒業していきました。

今回、私に同窓会をしたいと言ってきたのはY でした。印象深い教え子たちとの、卒業後30 数年ぶりの再会は、これ以上ない感慨深いものになりました。多くの教え子から、「あのときは先生に迷惑を掛けたよな」という言葉を聞いたとき、当時の苦労が報われたような気がしました。

 

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