カリスマ教師の履歴書

File8 三浦摩利先生(東京都多摩市立多摩中学校)

目には見えない心に耳をすませて

現在、東京都にわずか2人しかいない中学校道徳を担当する指導教諭のうちの1人である三浦摩利先生。「分かりにくい」と敬遠されがちな内容でも、視点を変えることでガラリと生徒の受け止め方が変わると言います。道徳の授業で生徒の心をつかむコツを伺いました。

三浦先生 メイン

文・ 澤田 憲

身近なエピソードこそ最高の教材

「母はもう一品つくると台所にいて、私と兄は先に夕食をとることになった。カレーを一口食べると、兄は何も言わず、ポロポロと涙をこぼした――。」

教室に響く三浦摩利先生の声に、生徒たちはじっと耳をすませています。この日の道徳の授業で読み上げられたのは、「母の日のプレゼント」という作品。一人暮らしを始めたばかりの兄と、その帰省を迎える母と妹の温かな交流が描かれた小さな物語です。

「この話は、教え子から聞いたエピソードを基に私が作りました。やはり身近な人や出来事を題材にした教材の方が、生徒たちも共感しやすいんです。」三浦先生がそう話す通り、授業後半の意見交換では、生徒たちからたくさんの意見が発表されました。

「兄が涙を流したのは、母への感謝の気持ちで胸が一杯になったからじゃないかな。」

「学生時代に母に苦労をかけたことを、申し訳なく思った気持ちもあると思う。」

人の気持ちを、どれだけ“自分事”として考えられるか。道徳の授業を深めるポイントは、物語を通じて子供たちに当事者意識を持ってもらうことにあると、三浦先生は語ります。

「私がこれまで30 本近くの教材を自作してきたのも、生徒がより興味を持ちやすい内容にすることで、自分の事として想像力を働かせてほしいという願いがあるからです。環境保護や社会連帯といった抽象的で大きなテーマでも、その舞台を故郷の町や学校の人間関係に置き換えるだけで、ぐっと身近に受け止めることができます。道徳は決まった答えがないからこそ、『自分で考えること』の難しさや喜びを教えてくれる、魅力に溢れた教科だと思います。」

 

自分が生徒だったらどう思うか

三浦先生が道徳教育の研究を始めたのは、教員として9年目を迎えた頃。前任校で、たまたま道徳主任になったことがきっかけでした。

「私は英語の教員で、教師になって数年間は英語の教材研究に追われる日々を過ごし、道徳に関して知識が豊富だったわけではありませんでした。でも、当時勤めていた中学校の副校長先生が『道徳の授業に一生懸命取り組むと、生徒との人間関係もよくなる』と話すのを聞いて、それなら本格的にやってみようと決めたんです。」

研究を始めてみて気づいたのが、生徒理解の大切さ。例えば、英語や数学であれば、テストを実施して、その点数で生徒たちの理解の一部分を知ることができますが、道徳には点数による指標がありません。そもそも道徳の授業によって培われるものとは何か――。

「それを知るためには、生徒一人一人の反応を今まで以上に観察しなければならないことに気づきました。つまり教師自身が『生徒の立場に立って考えること』が道徳教育では大切だということです。だから、道徳の授業を一生懸命準備する先生は学級経営がうまくいくと言われているのですね。」

道徳教育の奥深さを知った三浦先生は、東京都の研究員や研究開発委員を歴任した後、平成20 年に教員研修のための認定講師に着任。翌21 年には、教員のための派遣研修制度を利用し、東京学芸大学大学院に入学し、中学校における道徳教育の活性化をテーマに2年間の研究活動を行いました。こうした活動を通じて、現状の道徳教育が抱える問題点や難しさも見えてきたと、三浦先生は語ります。

「小学生から中学生に成長するに従い、道徳の授業を楽しいと感じられる子供が少なくなっていくことが、文部科学省の統計によっても明らかになっています。自意識が強まる一方で、自分の考えや気持ちを言葉にすることに恥ずかしさや抵抗を感じるようになることが一因だと考えられます。」

そこで三浦先生は、「話し合い活動」に重点を置いた道徳教育を実践していきます。授業に班活動を取り入れ、各班にA 1サイズほどのミニホワイトボードを配布。班の中でまとめた意見をボードに書いて、クラス全員に発表するといった具合です。

「教師が生徒を指名して発表させる形だと、どうしても教師対生徒の、点と点でのやりとりに終始してしまうんです。班での話し合い活動を取り入れると、全員が必ず1回は発言する機会を持てますし、より多面的にテーマを掘り下げることができます。よく若い先生から、道徳の授業のやり方が分からないという悩みを聞きますが、生徒たちに教えるのではなく、一緒に考えるぐらいの姿勢で臨めばよいと思います。」

三浦先生 サブ

 

そこにいる“人”に思いをめぐらせられるように

現在、三浦先生は東京都の道徳教育の指導教諭として、他の学校の教員に対する指導や研修会を実施しているほか、副読本の編集委員として教材開発にも携わっています。そうして忙しい毎日を送る一方、もう一つ大切にしているのが、地元・多摩地区の地域行事へ生徒と一緒に参加することだそうです。

「実は、今勤めている多摩中学校は、私の母校でもあるんです。祖母が地域の保護司をしていたこともあり、小さい頃から祭りや清掃活動といった地域行事には積極的に参加していました。今振り返ると、お菓子やジュースがもらえるからといった下心もあったように思いますが、さまざまな世代や立場の人々と話せるのが純粋に楽しかったんです。」

そうした地域活動などによって得た体験が、教材開発に結びつくことも多いと言います。例えば、東京都の郷土資料集に収録された「花火大会」という作品で
は、多摩川の花火大会での中学生のボランティア活動を描き、副読本に掲載された「あめ細工職人 吉原孝洋」では、デパートで出会ったあめ細工職人の生き様を紹介することで、勤労の尊さや意義を考えさせる題材としたそうです。

「中学校で学ぶ道徳のテーマはたくさんありますが、その中心にあるのは、どれも“人”の存在です。他人と喜びや痛みを共有するには、やはり座学だけではなく、実際に触れ合って心を交わす体験が欠かせません。自分がそうであったように、地域の大人が全員で子供を育てる目を持つことで、子供が周りの人たちを、そして自分自身をしっかり愛せるように育ってほしいと思います。」

三浦先生 顔

Profile
三浦摩利

東京女子大学文理学部英米文学科を卒業後
平成4年4月… …… 東京都調布市立調布中学校に赴任
平成10年4月……… 東京都多摩市立東愛宕中学校に異動
平成19年4月……… 東京都多摩市立多摩中学校に異動(現職)
平成21年4月~2年間……東京都大学院派遣研修にて、東京学芸大学大学院で修士課程を修了

趣味・特技
歌を歌うこと・手話

好きな言葉
If you can dream it, you can do it!
(ウォルトディズニーの言葉)

 

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