ICTが創る新しい学び

250台のタブレット端末を活用 協働的な学びで広がるICTの可能性

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東京都杉並区立桃井第三小学校

次期学習指導要領の目玉となっている「アクティブ・ラーニング」ですが、ICT の効果的な活用が、その充実に一役買うケースもあります。先進校では、どのような取り組みが展開されているのか、タブレット端末の活用を土台として、協働的な学びを創出する東京都杉並区立桃井第三小学校の実践をレポートします。
(文・野本由起)

 

東京都杉並区は豊かな自然に囲まれ、閑静な住宅街が広がる文教地区です。2014 年度には区内すべての小中学校の教室に据置き型のプロジェクターを設置するなど、ICT 機器を使った教育にも力を注いでいます。そんな同区において、ICT のパイオニア校的な役割を果たしているのが桃井第三小学校です。同校では2011 年度からプロジェクターや書画カメラを導入するなど、他校に先んじてICT の環境整備が進められてきました。2014 年9 月にはタブレット端末を250台導入し、区の教育課題指定校としてさらなる取り組みを進めています。

現在、1~4年生は学年に9台ずつ、5~6年生は1人1台ずつタブレット端末が配備され、全教科で活用されています。また、1~5年生の各教室には電子黒板機能を持つプロジェクターが、6 年生の教室にはテレビ型の電子黒板が、それぞれ設置されています。さらに、高学年の各教室には無線LAN アクセスポイントも備えられ、多人数が同時にアクセスしても安定したネットワーク接続を保てる環境が整えられています。「どのような環境を整備すればICT 機器の活用率が向上するのか、タブレット端末の台数も含めて模索しながら導入しています」と、末永弘校長が語るとおり、同校ではこの4年間で少しずつ機器導入やインフラ整備が進められてきました。また、ICT 支援員も月に12 ~ 14 日来校し、機材トラブル、アプリケーションの導入相談などに対応しており、教員がICT 機器を活用した新しい試みにチャレンジしやすい環境が整えられています。

 

タブレット端末とノートの併用で、協働的学習を展開

この日見学した授業は5年1組の算数。単元は「分数の引き算」です。教室前方の黒板には、左半分にマグネット式のスクリーンが貼られ、右半分はチョークで板書できるスペースが確保されています。子供たちの机の上には、教科書とノートの他に1人1台のタブレット端末。すべての教科の授業で使うため、登校後に保管庫から取り出して以降は、ずっと手元に置いておくそうです。

「では、ノートを開いて。」

担任の今城卓也先生の指示を受け、子供たちはこの日の授業で学ぶ「分数の引き算のしかたを考えよう」という授業のめあてをノートに書き込みました。ここまでは、ノートと鉛筆を使った一般的な授業と同じ。しかし、ここから徐々にアナログとデジタルを融合した授業が展開されていきます。まずは教員用のノートパソコンを使ってデジタル教科書をスクリーンに表示。これまでの授業で学んだ「約分」「通分」について復習します。続いて、「ジャムを、くみさんは1/2kg、かずまさんは2/3kg 作りました。ちがいは何kg でしょうか?」という問題に取り組んでいきます。

「タブレット端末に式を書いてみましょう。」

今城先生がそう言うと、子供たちは一斉にタブレット端末のスイッチを入れ、「ロイロノート・スクール」というアプリを起動して、タッチペンで式を書き込んでいきます。その途中、先生はプロジェクターの入力系統を切り替え、全員分の解答がスクリーンに分割表示されるようにしました。スクリーンを見ると一目瞭然、ほとんどの子供が「2/3-1/2」という式を正しく書けているのが分かります。

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黒板の左半分にスクリーンを貼り付け、デジタル教科書を表示。右半分は板書用のスペースとして使用します。
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タブレット端末に式を入力。それを教員に送ると、全員分の答えが電子黒板に表示されます。ICT 機器を使った協働学習で幅広い力を養う

 

「どうして2/3-1/2だと思ったの? 引き算だと思ったのはなぜかな? 1/2-2/3ではないと思ったのは、どうしてだろう?」

今城先生の問い掛けに、子供たちの手が一斉に挙がります。

「“合わせていくつ?”のときは足し算。“ちがい”を求めるのは引き算だから!」

「1/2は1 の半分だけど、2/3はそれより多いから」

元気の良い答えが次々と返ってきます。

「では、2/3-1/2という式と答え、どうしてその答えになったのか、自分の考えをノートに書いてみよう。前の授業でも、こうやって図を書いてもらったよね。」

そう言うと、今城先生は過去の授業で子供たちが書いた図をプロジェクターに表示しました。途端に「思い出した!」「分かった!」との声が上がります。

「書けたら、先生に送ってください。」

指示を受け、子供たちはノートに書いた内容をタブレット端末のカメラで撮影し、先生に送信し始めました。プロジェクターに映し出されたときにきれいに見えるよう、必要な部分だけをトリミングして送信する子もいます。

「それでは、周りの人と意見交換をしよう!」

今城先生がそう指示すると、子供たちはタブレット端末を手に席を立ち、近くの友達同士で話し合いを始めました。自分がどのように答えを導き出したのか、考え方を含め一人一人が丁寧に説明しています。ひとしきり話し合いが終わると、今度は今城先生がある子供の考えをスクリーンに拡大表示しました。表示された子供は、線分図を使った自分なりの解法を全員の前で説明します。次に指名された子供は、ピザのような「円図」を使って説明し、その次に指名された子供は「液量図」を使って説明し、さまざまな考え方が学級全体で共有されていきます。

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自らが立てた式について、どのように考えどのように解いたのか、自分の考えをノートに書き込み、タブレット端末のカメラで撮影して先生に送信します。
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考えがまとまったら、周りの友達と話し合い。他の人の意見を知ることで考えが深まります。

 

最後に通分のやり方をおさらいし、授業のまとめをノートに書いたところで、授業の残り時間は約5分。そこで、タブレット端末のアプリでドリルを解くことにしました。分数のひき算を10 問解いたところで授業は終了。黒板・ノートなどのアナログツールとタブレット端末・電子黒板などのデジタルツールがフル活用された密度の濃い45 分間に、子供たちも満足気な表情を浮かべています。

授業を振り返ると、タブレット端末は児童同士の解答比較、過去の解答閲覧、意見交換、習熟度を深めるドリル演習などさまざまな局面で使われていました。一方で、授業のめあてや数式と自分の考え、解答、まとめなどはノートにしっかり記されているので、家庭での復習にも困りません。

 

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授業の最後に、復習としてドリル問題にチャレンジ。学んだ知識が定着します。

 

 

 

ICT× 協働学習で思考力、表現力を高める

タブレット端末を有効に活用し、先進的な実践を展開する同校ですが、ICT 研究主任の上野真喜子先生によると「特別なことをしているわけではありません」とのこと。実践を縁の下で支えるICT 支援員の若山貴広さんも、「この学校はタブレット端末を“普段使い”しています」と言います。

「今城先生のように、効果的にタブレット端末を使って授業する先生がいると、他の先生も自然と真似をするようになります。こうした授業スタイルが伝播している点が、この学校の特色です。」(若山さん)

中でも目立つのは、複数の児童が学び合う協働授業でのタブレット端末の活用です。

「児童が課題を提出する際、今まではノートを集めていました。でも、タブレット端末ならその場で瞬時に考えや解答を送信することができ、電子黒板に表示して、みんなに向けて説明することもできます。『AさんとBさんは同じ考えだね』と分類することもできますし、違いを比較してさらに考えを深めることもできます。また、表現力を高める使い方もできます。例えば理科の授業では、東西南北の雲の写真をグループごとに撮影し、その結果を4 分割画面に表示して、各方角の雲の様子を比較しました。さらには、画面をフリックして時間による雲の動きの変化も見ました。今までは大きな模造紙や黒板に観察・実験の結果を書いていましたが、タブレット端末なら簡単かつスピーディに提示できます。児童からも『発表が楽しい』『タブレット端末を使うと分かりやすい』という声が聞かれます。」(上野先生)

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クラス全員の前で、自分の考えを発表。スクリーンには、自らが立てた式が表示されています。

 

とはいえ、すべての活動をタブレット端末に頼るわけではなく、実体験を重ねたり、重要事項をノートにまとめたりする作業も大切だと上野先生は言います。

「あらかじめ用意した太陽や雲の写真を電子黒板に映し出すだけでは、児童の頭に残りません。自分の目で観察すること、自分の手で記録することも大切です。また、タブレット端末は起動しないと過去のデータが見られないため、自宅学習のためにもノートにしっかりと書き残すことが必要。意見を共有したり考えをまとめたりするときにタブレット端末を使い、後に残すべきことはノートに書くというように、デジタルとアナログの使いわけが大事です。」

 

子供の考えを揺さぶることが、考えを深める第一歩

末永校長も「タブレット端末は、あくまでもツール」だと強調します。「ICT 機器もアクティブ・ラーニングも手段にすぎません。目的は、子供たちの学力、思考力や判断力を伸ばすことです。これまで築き上げてきた指導法をベースに、子供たちが互いの考えを交流しながら一人一人の考えをさらに深めるにはどうすればよいのか。『こういうツールがあれば授業の質が高まり、子供たちの学力も向上する』というときに、ICT 機器を使うべきだと考えています。そのため、本校ではまずICT 機器を使用しない指導案を作り、その上でICT 機器をどのように使えば授業の質が高まり、学力が高まるのか検討を重ねます。他の児童と考えを共有し、自分の考えを深める。このような協働学習でこそ、タブレット端末が活きるのではないでしょうか。」

この日見学した授業を例に挙げると、過去の授業内容を引き出す場面、クラスの意見を集約して児童自身に説明する場面などで、タブレット端末の効果が顕著に現われていたと末永校長は語ります。

「過去の授業内容を引き出す場面は、『以前はこういう考え方で問題を解いたよね』と、次の考えに入るためのきっかけづくりになりました。また、みんなの意見を集約する場面は、『あ、友達はこんなことを考えていたんだ』と異なる意見に気付く機会となりました。多様な考えがあることを知れば、普段はあまり発言しない児童も『いろんな考えがあっていいんだ』と自信を持って発表できるようになります。また、教員も全児童の考えを把握した上で、俯瞰的に授業を進められます。また、『なぜそう考えたんだろう』『本当にそれでいいのかな』と児童の考えを揺さぶることもできます。こうした意図的な揺さぶりが、考えを深める一歩になると思います。」

今後の課題は、ICT 機器をより効果的に使用し、学力の向上に役立てることだと末永校長は言います。そのためには、「学力を高める上で本当にICT 機器が効果的なのか、常に検証していく必要がある」とのことです。

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電子黒板に、太陽の表面の画像を写し出した上野先生。その後、太陽観望メガネを児童に渡し、全員で校庭へ。本物を観察・実験する体験も大切にしています。

 

また、公立学校の教員には、「異動」があります。異動により、ICT がない学校へ転任する可能性もあれば、ICT の活用が日常的な学校に転任する可能性もあります。この点について、末永校長は次のように教員志望者へアドバイスを送ります。

「ICT の有無にかかわらず、自分のスキルで授業を展開できるよう指導力を高めることが大切。ICT 機器がない環境、機材トラブルなどで使えない環境でも、自分のスキルで授業を展開できる教員になってほしい。これから教員になる人には、ICT 機器を活用できる教員を目指しつつ、ICT 機器だけに頼る教員にはならないよう心掛けてほしいですね。」

 

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