ICTが創る新しい学び

注目の小中一貫校 ICTも9年間の系統的な実践を展開

201511P132茨城県つくば市立春日学園

2016年4月から「義務教育学校」が設置可能になるなど、小中一貫教育の取り組みが加速しています。そうした状況の中、施設一体型の小中一貫校として9年間の系統的なICT 教育を展開し、注目を集めているのが茨城県つくば市立春日学園です。同校の実践と成果をレポートします。
(文・野本由起)

 

世界有数の科学技術都市に設置された小中一貫校

約300 もの研究機関・企業が集まるつくば市は、世界有数の科学技術都市として知られています。筑波大学をはじめとする高等教育機関も点在し、初等教育に関しても先進的な取り組みが行われています。ICT 教育にも早くから着手しており、1977 年には日本で初めてコンピュータを学校教育で活用、注目を集めました。また、1987 年には中学校の全教科でコンピュータを活用する実践研究が始まり、2001 年には全校に電子黒板を配備。さらに2004 年からは、インターネットを使って家庭での個別学習を支援する「つくばオンラインスタディ」もスタートしています。ICT の「C」は一般的に「Communication」を意味しますが、同市では「Community(協働力)」、「Communication(言語力)」「Cognition(思考・判断力)」、「Comprehension(知識・理解力)」の4つの意味を持たせ、「4C学習」を促進しています。

「4C学習」の実現のために設けられたのが、つくば市独自のカリキュラム「つくばスタイル科」です。平成24 年度から文部科学省の研究指定を受け、環境、キャリア、歴史・文化、健康・安全、科学技術、国際理解、福祉、豊かな心といった8つの内容を学習しています。

市を挙げて先進的なICT 教育に取り組むつくば市の中でも、特に注目を集めているのが同市立春日学園です。2012 年に設立された小中一貫校で、広大な敷地の中で1,600 名を超える児童生徒が学んでいます。

発達段階に適した指導を行うため、義務教育の9年間を「1~4年」「5~7年」「8~9年」の3段階に分ける「4・3・2制」を採用し、5年生以上は教科担任制を実施しているのが特徴です。

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つくば市が実施するプレゼンテーションコンテストでは、1 年生からICT を使ったプレゼンを披露。思考力や表現力が養われます。

 

ICT 機器を使った協働学習で幅広い力を養う

同校では、2012 年の開校当初から全学年、全教科の授業にICT 機器を取り入れています。2つのコンピュータ室、各教室で使える電子黒板の他、Windows搭載のタブレット端末が180 台配備され、日々の授業で活用されています。

校長の片岡浄先生は、同校のICT 活用が「子供主体」で行われている点を強調します。話し合いによって多角的に物事を考えるときはグループで1台、じっくりと考えを深めるときには1人1台といった形で、目的に応じてタブレット端末の使い方を変え、より効果的な活用法を研究しています。

実践における特色の一つが、プレゼンテーションにおけるICT 活用です。つくば市では2003 年度からICT 機器を用いたプレゼンテーションコンテストを開催しており、同校では1年生から9年生まで全児童生徒が参加しています。発表は5~6人のグループ単位で行われ、学年別テーマに沿った学習内容を発表しています。

「クラスで発表を行い、高い評価を得たグループは学年発表、ブロック発表、市大会と選抜されていきます。どの児童生徒にも、等しくプレゼンテーションの機会を与えているのが特徴です。」(8年生主任・算数数学科/坂本修先生)

「2013 年度には、本校の1年生が市のコンテストで市長賞を受賞しました。また、昨年からはグローバルな人材育成を見据え、本校では5年生以上を対象に英語でのプレゼンテーションコンテストも実施しています。」(教頭/吉田浩先生)。

 

多彩に展開される各教科でのICT 活用

各教科の授業でも、ICT 機器はフル活用されています。例えば算数や数学では、児童生徒の意見を比較検討し、思考力の向上を促しています。

「子供たちがタブレット端末に書き込んだ回答を、電子黒板に全員分表示します。近い意見、異なる意見を色で囲んでグルーピングしたり、教師がメモを書き込んだりして授業を進め、それを子供たちのタブレット端末にフィードバックすることもできます。こうしたデータは保存・蓄積されるので、他クラスの授業で『他のクラスではこんな意見が出たよ』と紹介できます。評価に活用することも可能です。」(坂本先生)

「子供たちが何を考えているのか、授業の中で一人一人把握するのは大変です。でもタブレット端末で全員分の意見を一覧表示させれば、誰が何を考えているのか一目で分かります。思考の可視化ができるという点で非常に便利です。」(吉田教頭)

他にも、理科の実験結果をグループごとにタブレットでまとめて発表したり、土器をカメラで拡大表示して表面の模様を電子黒板に映し出したりと、活用法はさまざまです。体育では跳び箱など器械体操のフォーム、音楽では演奏風景などをタブレット端末で録画し、再生してチェックするなど、技能系の教科でも効果的に活用されています。

課外学習では、タブレット端末を校外に持ち出して使うこともあります。6年生の修学旅行(鎌倉)でも、グループ活動でフル活用をしました。

「あるグループは伝統工芸品、あるグループは有名なお菓子屋さんなどとテーマを決めて現地で取材し、夜には宿泊先でその成果をまとめ、発表会を行いました。通常は戻って来てから行うことを、その日のうちにやってしまったのです。それが実現できるのも、日頃からICT を活用した協働学習やプレゼンテーションを行っているからです。子供たちに思考力や表現力が身に付き、原稿なしでも分かりやすく話せる力が付いていることを日々実感しています。」(片岡校長)

 

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タブレットを手に街探検をしたり、自然観察をしたりと、さまざまな場面でICT機器が活用されています。調べた結果をまとめ、発表する際にも、電子黒板などを使用します。

 

学年縦割りのICT 教育で育まれる自己有用感

高度かつ系統的なICT 教育を展開する同校ですが、そのスタート地点となる1年生ではどのような授業を行っているのでしょうか。

「1年生から植物の成長過程を写真に撮るなどしてタブレット端末やデジタルカメラ等を活用しています。ただ、さすがに1年生がICT を活用して“まとめる”のは難しいものがあります。そこで、手を貸してくれるのが上級生です。本校は施設一体型の小中一貫校ということもあって、異学年の交流学習を頻繁に実施していますが、例えばつくばスタイル科の授業では、上級生が1年生にICT 機器の使い方や発表資料のまとめ方を教えてあげることがあります。小中両方の教員免許を持つ教員が数多く在籍するのも、異学年の交流学習を行う上での強みとなっています。」(片岡校長)

驚くことに、同校の不登校児童生徒数はゼロ。1,600人以上の児童生徒を抱える学校としては異例です。背景には、9年間の系統的な教育課程に加え、異学年交流による仲の良さ、居心地の良さがあると、片岡校長は指摘します。

「下級生は、上級生がテキパキと教えてくれる姿を見て『ああいうお兄ちゃんお姉ちゃんになりたい』と憧れるようになります。上級生にもその思いが伝わり、『自分は必要とされているんだ』という自己有用感、責任感が養われます。合同学習だけでなく清掃活動なども一緒にしている成果なのか、アンケート調査等の結果を見ても、本校の児童生徒は自己有用感が他校よりも高い傾向にあります。」(片岡校長)

ICT の活用も含め、多彩な教育実践を展開する同校ですが、その成果は学力面にも現れていると言います。

「継続的な取り組みを通じ、子供たちの思考力が大きく向上したことを実感しています。全国学力・学習状況調査でも、活用力を問うB問題の点数が、開校時より大幅に上昇しています。もちろん、知識・技能を問うA問題の成績も上がっています。」(吉田教頭)

日々の授業を通じて論理的思考力が培われていることを象徴する出来事として、片岡校長はあるエピソードを話してくれました。

「新任の先生が、理科で従来型の一斉授業を行っていたところ、ある児童から『最近、授業がつまらない』との声が上がったのです。話を聞くと、以前はグループごとの実験結果を比べたり、結果が異なる原因を考えたりするのが楽しかったと言います。つまり、正しい答えが出ればそれでよしとする授業では、子供たちも満足しなくなっているのです。この話を聞いて、私たち教師は、考える楽しさを子供たちから奪ってはならないとの思いを強くしました。」(片岡校長)

 

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書写の授業では、先生の手本を電子黒板に拡大表示。子供たちは、毛筆の「はらい」や「とめ」を席に着いたまま学習できます。

 

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国語の授業では、一人が朗読する姿をもう一人がタブレット端末で撮影。自分の朗読を客観的に見直し、聴く人により分かりやすく伝える方法を模索します。

 

日常的な研修で教師のICT 活用力が向上

ICT の活用を効果的に行うためには、教師側の技量も必要です。100 名近い教師が在籍する同校に、「ICT機器が苦手」という先生はいないのでしょうか。そんな問いに、片岡校長は次のように答えます。

「本校は、特別にICT が得意な先生だけが赴任しているわけではありません。中には、タブレット端末や電子黒板を初めて使う先生もいます。そのため、校内研修の機会をできるだけ多く設けるようにしています。そして、『こんな授業をやるので見に来てください』と誰かが言えば、他の教科の先生も見に来ます。

校内に10 名の研究推進委員がいて、学年ごとにどんな使い方をすればよいかを研究しています。また、研修ウィークも年3回設け、模擬授業によるデモンストレーションを行っています。日頃も機器の使い方を教え合ったり、効果的な活用場面を共有し合ったりと、活発に情報交換をしています。」(片岡校長)

「本校では、若手とベテランの意見交換も活発です。ベテランの先生の中にはICT 機器の活用を苦手とする人もいますが、彼らには指導力があります。そのため、使い方さえ分かれば的確かつ効果的にそれを活用できます。一方の若手も、そんなベテラン教師から授業技術を学び、授業力を向上させています。こうして、良い相乗効果が生まれているのではないかと思います。」(吉田教頭)

同校は、文部科学省の研究指定校であり、国内ではわずか6校の「Microsoft Showcase Schools」の認定校でもあります。あらゆる側面で注目度は高く、北はロシア、南はチリから国内外を含め年間2,000 人もの視察者が訪れます。そうした環境の中で、先生方も日々鍛えられていますが、今後は教師の意識改革をさらに進める必要があると、片岡校長は語ります。

「一貫校として実践を重ねてはきましたが、いまだ『6・3制』の意識が抜けない教員も少なくありません。でも、本校は『4・3・2制』。小中の垣根なく、系統的な発達を意識しながらICT 機器の活用やアクティブ・ラーニングの推進に取り組んでいかねばなりません。他校が未着手の領域に取り組んでいるわけですから、やはり大切なのは研修です。現在も『4・3・2』の学年の括りでブロック研修を開くなどしていますが、今後も有益な研修を模索しながら継続的に行っていきたいですね。」(片岡校長)

個々の先生方のたゆまぬ“研究”と“修養”により、系統的なICT の活用を実現している同校。2016 年度から設置される他の義務教育学校においても、見習うべきロールモデルとなるに違いありません。

 

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つくばスタイル科の合同学習では、中学の教員が見守る中、7年生が3年生にタブレット端末やパソコンの使い方を指導。学年を越えた交流が行われています。

 

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イメージマップやピラミッドチャートなどの思考ツールを用い、論理的に考える力を養います。

 

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同校では、筑波大学のロボットが授業に参加する、ユニークな試みも行われています。今年度は、ニュージーランドの子供たちとの交流授業を行いました。
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