学校不祥事の顛末

部活動中の体罰で 部員が骨折

【今月の事例】
体罰で骨折、中学教諭を減給
市教育委員会は、自分が顧問を務めるサッカー部の部員に体罰をしてけがをさせたとして、同市立B 中学校の男性教諭(52)を減給2カ月(10 分の1)の懲戒処分とした。
市教委によると、教諭は部活動の練習に遅れてきた3年生の男子生徒に、頭突きや膝蹴りをして鼻の骨を折るけがをさせた。教諭は市教委に、生徒の反抗的な態度に腹が立ったと話しているという。市教委は、再発防止策として全ての市立学校に体罰の禁止についての通知を出した。

 

【法律家の眼】

傷害を負わせた体罰事件
民事上の責任はどう問われるのか

弁護士 樋口 千鶴(上條・鶴巻法律事務所/東京都教育委員会公益通報弁護士窓口)

 

1 体罰を行った教員に対する法的責任

今回の事例は、頭突きや膝蹴りにより鼻骨骨折という傷害を負わせたものです。明らかに違法な体罰であり、前回解説したように暴行行為により傷害という結果が発生しているため「傷害罪」(刑法第204 条)に当たり得る事案です。この刑事責任は、あくまでも加害者である教員個人が負う法的責任ですが、民事上の責任を追及される場合は教員個人だけの問題にとどまりません。

今回は、この事案をもとに民事上の責任を具体的に見ていきましょう。

 

2 本事案で賠償責任を負うのは誰か

今回の事案は公立学校が舞台です。このような国公立学校の教員による体罰について民事訴訟で損害賠償請求がなされる場合、国家賠償法(第1条、第3条)が問題になります。

【国家賠償法第1 条第1 項】
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責めに任ずる。

 

これは、いわば教員個人に代わる代位責任というべきものです。本事案では、教員(=公権力の行使に当る公務員)が、部活動の指導(=職務を行う)にあたり、故意または過失によって、体罰(=学校教育法第11 条により違法)をして骨折(=治療費や慰謝料といった損害発生)を負わせています。この場合、被害者に対し直接的に賠償責任を負う立場にあるのは、国家賠償法によれば県など(以下、単に「県」といいます)ということになります。

そうすると、教員個人の責任は問われないのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、国家賠償法(第1条、第3条)の定めには続きがあります。

【国家賠償法第1条第2項】
前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

 

「求償」とは聞き慣れない言葉かもしれません。本事案で説明すると、県が被害者に対して損害賠償として金銭を支払ったとしても、その後、県が教員に対し、支払った損害賠償の全部または一部の支払いを求めることを言います。事案の中身により求償されない場合もありますが、教員が求償される立場にあることは理解しておいてください。

なお、教員個人の代わりに県が被害者に対する直接的な法的責任を負うとしても、実際に民事訴訟を提起される場合には、教員個人も被告として訴えられることがあります。そうすると、弁護士を依頼して打ち合わせを重ねるなど、時間的・経済的・精神的な意味で、事実上の負担はとても大きくなります。

 

3 私立学校の場合

他方、私立学校の場合は国家賠償法の適用がありません。この場合、加害者となった教員は、被害者に対し民法上の不法行為責任(民法第709 条)を負います(国公立と異なり教員個人が被害者に対し責任を負う)。

そして、教員がこうした不法行為責任を負う場合、その教員の雇い主である私立学校も、被害者に対し使用者責任(同法第715 条第1項)を負うことがあります。

 

4 総括

このように、体罰に関して民事上の損害賠償責任が追及される場合、教員個人の問題にとどまらず、県や学校などを巻き込む紛争へと発展しかねません。新任の教員であっても、法的責任はベテラン教員と同じです。教員を目指す皆さんには、法令遵守(コンプライアンス)の意識を高く維持して、体罰をしないという心構えだけでなく、体罰に頼らない指導力を身に付けていただきたいと思います。

 

【教育者の眼】

体罰を起こした教師はその後、どうなるのか

濱本 一(共栄大学教授/前埼玉県教育局市町村支援部長)

今回は中学校における部活動中の体罰事例です。部活動は教育課程外ではありますが、学校教育の一環であり、体罰禁止(学校教育法第11 条)が適用されることは言うまでもありません。今回の事例も決して「指導」とは言えず、頭突きやひざ蹴りをして鼻の骨を折るなど悪質性が強く、体罰禁止に違反するどころか傷害罪に当たることも考えられます。

今回は、こうした事件を起こした教師が、その後どのような処分等を受けていくのかを見ていきます。

 

■ 行政上の責任 → 懲戒処分

都道府県教育委員会または政令指定都市教育委員会が任命権者として、懲戒処分を行います(地方公務員法第6条)。懲戒(地方公務員法第29 条)は、教職員が・法令等に違反した場合

・職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
・ 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合

において行うことができます。

体罰については、児童生徒や保護者からの信頼を損ない、その職の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉となる行為として、信用失墜行為の禁止(地方公務員法第33 条)に該当します。そして、懲戒処分の種類(地方公務員法第29 条)には、「戒告」「減給」「停職」「免職」の4種類があり、この事例では「減給」としています。

 

■ 民事上の責任 → 損害賠償

不法行為に基づく賠償として、被害者から治療費、慰謝料などの請求がされるケースがあります(民法第709 条)。

 

■ 刑事上の責任 → 刑事罰

体罰の内容等によっては、刑法に基づき「傷害罪」や「暴行罪」、「業務上過失致死傷」等の刑事罰(罰金や懲役刑など)が課せられることもあります。禁錮以上の刑が確定すると失職となります。

■ 当該教諭の家族への影響 
これら行政上、民法上、刑事上の罰以上に大きいとも言えるのが、社会的な罰です。懲戒処分を受けて職を失えば、収入が減り、家族は経済的に困窮することとなります。また、新聞等で実名報道がなされた場合には、当該教諭はもちろんのこと、家族の生活に多大な影響が生まれ、精神的な苦痛を受け続けることになります。

 

■ 信頼の回復

免職処分に至らなければ、当該教諭は引き続き、その学校での勤務となります。被害を受けた児童生徒をはじめ、他の児童生徒や保護者、教職員、地域の方々から失った信頼を取り戻すのは、容易ではありません。自らの行いを猛省し、自分の指導力を謙虚に見直し、誠実に努力し続けることが求められます。信頼回復にはかなりの時間がかかることでしょう。

現職の教師やこれから教師を目指す人には、体罰の代償が計り知れないものであることを肝に銘じてほしいと思います。

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