編集長コラム

漢字を習う順序 その意外な法則とは?

201511P138佐藤 明彦(時事通信出版局『教員養成セミナー』編集長)

 

漢字を習う順序とその法則性

 いきなりですが、クイズです。次の3つの漢字を「学校で習う順」に並べてみてください。

A 寸   B 兆   C 曜

 いかがでしょうか。小学校時代にどの順で習ったかを覚えている人は、さすがにいないのではないかと思います。 正解は「C → B → A」。C の「曜」は小2、B の「兆」は小4、A の「寸」は小6で習います。画数を基準に考えた人は、大きく外したのではないでしょうか。

 「寸」のように、わずか3画のシンプルな字を、なぜ小6まで学ばないのか、疑問に思う人もいるでしょう。「寸」を含む「村」は小1で、「付」は小4で習うわけですから、なおさらです。

 一方で、「曜」の字は、画数で言えば18画にも上り、「隹(ふるとり)」が入るなど字形も複雑です。にもかかわらず、小2という極めて早い段階で習います。「何かおかしいんじゃないの?」と思う人もいることでしょう。

 しかし、結論から言うと、何年生でどの漢字を習うかについては、子供の発達段階等を考慮した上で、非常によく考え抜かれています。例えば、小1で習う漢字80字には「一~十」「百」「千」などの数字の他、体の部位を表す「目」「口」「耳」「足」、地域にある「山」「川」「林」、学校や通学路にある「花」「草」「石」などが含まれます。これらに共通しているのは、“身の回り”にある“具体物”であるという点で、子供にとっては幼稚園の頃からよく口にしてきた言葉です。

 一方で、小6で習う「寸」は、画数こそ少ないものの、“身の回り”の“具体物”ではありません。「これは何?」と絵を示して、答えられるようなものではなく、抽象的な概念であるため、小学校低学年の児童には覚える手がかりがないのです。

 なお、小2で習う「曜」も、具体物ではありませんが、「曜日」という身近な生活指標であり、日常生活で頻繁に飛び交う言葉であることから、小2という極めて早い段階で習うようにしているのです。

 

漢字を習う“順序”を定めているものとは

 小学生が、どの学年でどの漢字を習うかについては、学習指導要領の「学年別漢字配当表」に定められています。小1の80字から始まり、6年間で習う漢字は全部で1006字。一覧表を眺めているだけでも、なかなか興味深いものがあります。一方で、中学生が習う漢字は全部で1,130字に上りますが、こちらは学年別には示されていません。そのため、習う順序は使用する教科書によって異なります。

 小学校の「学年別漢字配当表」を分析すると、ある法則性が浮かんできます。それは、習う漢字が、教科の学習内容と深く結びついているという点です。

 例えば、小4の算数では「大きな数」という単元があり、「万」よりも大きな数の単位を扱います。そのため、小4には「億」「兆」の漢字が配当されています。また、小6の理科では人体の臓器について学ぶため、「肺」「脳」「臓」などの漢字が配当されています。そして、小6の社会では歴史を学ぶため、「将」「貴」「幕」「盟」などの漢字が配当されているのです。

 画数や字形の複雑さから見ると不可解だった「学年別漢字配当表」ですが、こうして「他教科との関連性」という視点で見ると、非常によく考え抜かれていることが分かります。

 なお、小学校で習う1,006字の漢字は、別に「教育漢字」あるいは「学習漢字」と呼ばれ、筆順(書き順)も「筆順指導の手びき」に示されています。しかし、1,006字の書き順を完璧にマスターするのはとても大変です。中でも「必」「飛」「馬」「蔵」などの字は間違えやすく、多くの大人が間違った書き順で覚えています。

 ある元校長先生が「小学校の教師であっても、1,006字の書き順が完璧な人はほとんどいない」と話していました。それほど、すべてを完璧にマスターするのは大変ですが、教師を目指すのならば、間違いは少しでも正しておきたいところです。

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「常用漢字」と「当用漢字」

 文部科学省では、一般の社会生活において使用する漢字の目安として、2,136字を「常用漢字」として示しています。これは、強制力を持つものではありませんが、新聞や本などの印刷物から、標識や看板など公共掲示物まで、あらゆる媒体の表記基準として活用されています。例えば、「叩」「嬉」「揃」などは、常用漢字ではないため、多くの新聞や雑誌が「たたく」「うれしい」「そろう」などと、平仮名で表記するようにしています。

 国が常用漢字を示すことに対しては、一体何の意味があるのかと、異議を唱える人もいます。確かに、どれを漢字にして、どれを平仮名にするかは、各人・各組織等の判断に任せればよいとの見方もできるでしょう。

 しかし、中国で生まれた漢字は独自の発展・進化を遂げ、現在はその数が10万字に上るとも言われています。その中には、「旧字」や「略字」と呼ばれるものもあり、これらを制限なく、自由に使ってよいとなれば、百花繚乱、多種多彩な漢字が入り乱れ、何が何だか分からなくなってしまう可能性があります。

 そうした状況にならないよう、コントロールをしているのが「常用漢字」なのです。日本では、どの出版物も、どの標識や看板も、全国どこへ行っても支障なく読むことができますが、これも常用漢字によるマネジメントが国レベルで行われているからだと言っても過言ではありません。

 ちなみに、この「常用漢字」ですが、1981年より前は「当用漢字」と言われていました。「当用漢字」が示されたのは、まだ米国の占領下にあった1946年。「当用」とは「当面は用いる」の略です。この当時、GHQ を中心に漢字を廃止する動きがあり、日本人の学者の中にも、漢字をやめてローマ字表記にすべきという論を唱える人がいました。そうした状況の中で、「当面は用いる」として示されたのが、当用漢字だったのです。

 日本語は漢字や平仮名、片仮名、英数字などを必要に応じて使い分ける、極めてハイブリッドな言語です。もし、戦後に漢字が廃止され、ローマ字表記やひらがな表記になっていたら…、文字を介した私たちのコミュニケーションは、もっと不便なものになっていたのではないでしょうか。

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