カリスマ教師の履歴書

file6 渡部 尚先生 (東京都昭島市立清泉中学校)

諦めずに行動することで
見える世界が変わってくる

「子供時代は劣等生だった」と言う渡部先生。自分が自信を持てたのは、周りの大人の温かい支援のおかげであり、問題を抱える生徒に対しては、まず大人たちが“行動”で見本を示すことが大切だと語ります。生徒の心をつかむ指導のコツを、伺ってきました。

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 文・澤田 憲

子供を変えるためにまず大人が変わる

「とにかく大変な状況でした。授業参観中でも生徒が教室を走り回ったり、窓から外に出ていったり。空から机が降ってくるなんてこともありました。」

前任校での経験を語るのは、昭島市立清泉中学校で保健体育を教える渡部尚先生。同校で主幹教諭を務める渡部先生は、これまでも生徒指導役として最前線で生徒たちを見守ってきました。

「今年の4月に今の学校に異動してきましたが、前任校では学年主任を4年間、生徒指導主任を3年間務めました。当時は本当に体を張っていましたね。暴れる生徒をなだめながら、興奮が冷めるまでこんこんと諭すといったことを毎日繰り返していました。」

どうすれば生徒たちは言うことを聞いてくれるのだろうか。生徒たちと向き合いながら自問自答を繰り返した末に、渡部先生は「子供が荒れるのは、教師や親の責任でもあり、まずはそこを整理する必要がある」ことに気が付いたそうです。

「例えば家庭には、学年通信を使って、今学校でどんなことが起こっていて、そのために我々教師が何を考え、どんな取り組みをしているのか、事細かに書いて現状を伝える努力をしました。保護者会でもたくさんの方に『何でも連絡するし、何でも連絡をください』と声を掛けました。そうやって少しずつ、学校と家庭の風通しを良くして、連携を強めていったんです。」

生徒指導主任になり、学校全体を見守る立場になってからは、“先生たちへの声掛け”にも積極的に取り組んだと言います。「あ・じ・み(挨拶、時間、身だしなみ)を守ろう」とスローガンを掲げ、例えば生徒と廊下ですれ違ったら、返事がなくても必ず挨拶する。授業の開始1分前には、必ず教室にいて授業の始まりを落ち着いて待つ、といったことを、全教師が実践するように働き掛けたそうです。

「生徒指導というと、生徒にああしろこうしろと指示するイメージがありますが、大人である私たちの言動こそが一番の指導です。だから生徒たちに要求するのではなく、まずは自分たちがかっこいいと思ってもらえる大人になろうよって呼びかけたんです。」

若い先生を中心に一丸となって取り組んだ結果、生徒たちは次第に落ち着き始め、学校の状況は変わっていったそうです。破れ放題だった掲示物は花の写真で一杯になり、過労で倒れる教師もいなくなりました。

「嬉しかったのは、離任式の日に、卒業した教え子たちが連絡もしてないのに駆けつけてくれたことです。すぐに結果は出ないかもしれない。でも、真心は必ず伝わる。『迷惑をかけました』と、最後に教え子が笑いかけてくれたときに、そう確信できました。」

生徒の自主性をいかに伸ばすかが教師の腕の見せどころ

渡部先生の前任校での実践は、その後、学級・学校経営の貴重な研究実績として、高い評価を受けます。

平成25 年度に東京都教育委員会より、体育指導、生活指導の2部門で表彰を受けたほか、平成27 年度には文部科学大臣賞を受賞しました。その傍ら、東京都公立中学校保健体育研究会にも長年携わり、保健体育の分野でも先進的な取り組みを続けています。

授業で大切にしているのは、「メリハリをつけること」だと渡部先生は言います。この日行われた体育理論の授業では、錦織圭選手やイチロー選手など、世界で活躍するトップアスリートたちを紹介しながら、「スポーツの素晴らしさと特性」について語りました。「スポーツの良さって何だろう?」という渡部先生の問いかけに、生徒たちから活発な意見が飛び交います。

「生徒指導にも言えることですが、生徒たちには常に自分で考えさせることを意識しています。今の子供たちは、例えば運動会や合唱コンクールなどで『何がしたい?』と聞いても、なかなか意見が出てこなかったりします。『これがやりたい!』という声が出てくるようになると、そのクラスはぐっと伸びます。」

生徒たちから質問されて、正解を教えるのは簡単。でも教師がすべて指示しては、生徒が自分で何かをやろうとする意欲をそいでしまうと渡部先生は話します。

「もちろん初めのうちは、できないことや分からないことに根気強く答えてあげる姿勢も必要です。自主性に任せるのと、放任とでは意味が違います。ただ、生徒たちの言動や様子には常に気を配りながら、注意したい場面であえて言葉を飲みこむことも大切。すると不思議なことに、生徒の側から『もっとちゃんとしようよ』と声があがってくるんです。クラスの主役は教師ではなく、あくまで子供たちなんです。」

“頑張らせてくれた”経験が大きな自信につながった

学校内外で活躍する渡部先生ですが、教師になる前は2年間、民間企業に勤めていたそうです。

「当時は教員採用試験の倍率がとても高く、合格するのが難しかったんですよね。ただ民間での経験は教師になったとき、絶対に生きると思ったので、それほどネガティブには考えませんでした。」

教師になる夢が高まる一方で、東京都のほとんどの区や市に「保健体育の講師の枠があればチャレンジさせてほしい」と、直筆の手紙を送ったと言います。

こうした夢を諦めずに行動し続ける姿勢は、渡部先生が子供時代に教わった先生の影響が大きいそうです。

「私は子供時代、とても忘れ物が多く、落ち着きのない子だったんです。でも当時担任だった若い男の先生が、私専用の持ち物ノートを作ってくれて、1年間毎日欠かさずチェックしてコメントを書いてくれたんです。そのおかげで、忘れ物も減り、自分の性格の特徴もよく分かりました。」

中学時代に出会った先生は、とにかく自分を信用して学級委員や柔道部のキャプテンなど、責任ある立場をいろいろと任せてくれたそうです。そのことを渡部先生は、「先生が“頑張らせてくれた”」と表現します。

「私はそれまで、他の子ができることがまったくできない劣等生でした。でも、先生が自分の可能性を信じて挑戦させてくれたことで、次第に自信を持てるように変わっていったんです。子供の主体性を伸ばしてあげるには、『頑張れ』と口で言うだけでなく、“頑張れる機会”を与えてあげることが大切だと思うんです。私も、子供たち対して常に『一緒に頑張ってみようよ』と言える教師でありたいと思いますね。」

 

 

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Profile

渡部 尚
1972 年11 月27 日生

平成7年3月…… 日本体育大学体育学部武道学科卒業
平成7年9月…… 民間企業に就職
平成11年4月……… 東京都大田区立東蒲中学校に赴任
平成15年4月……… 東京都港区立朝日中学校に異動
平成20年4月……… 東京都大田区立六郷中学校に異動
平成27年4月……… 東京都昭島市立清泉中学校に異動(現職) 

趣味・特技
サッカー観戦 釣り

好きな言葉
世界新は無理でも、自己ベストは狙える。

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